アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。また、教養を磨きたい人にとっても、「教養の土台」である宗教の知識は欠かせない。西欧の音楽、美術、文学の多くは、キリスト教を普及させ、いかに人々を啓蒙するか、キリスト教を社会にいかに受け入れさせるのかといった葛藤の歴史と深く結びついているからだ。本連載では、世界94ヵ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。
ユダヤ教を知らないとアメリカは理解できない
アメリカの人口3億3000万人のうち、ユダヤ人はおよそ500万人といわれていますが、彼らは政治経済的な力を持っています。
政財界のみならず、映画、出版、新聞などアメリカのマスメディアおよびエンターテインメント業界の創業者はユダヤ人が多く、影響力は多大です。
インテルやデル、グーグル、そしてフェイスブックの創業者もユダヤ人またはユダヤ系です。
キーパーソンがユダヤ人である確率が高いということから、ユダヤ教を知らずにアメリカと仕事をするのは難しいと言えそうです。
イスラエルはITやベンチャーが盛んです。ユダヤ教を知ることは、彼らとのビジネスにも役立つでしょう。
ユダヤ人の定義は原則的には次の二つのいずれかに当てはまる人です。
A.母親がユダヤ人である
B.ユダヤ教徒あるいはユダヤ教に正式に改宗を認められた人である
イスラエル国民であってもパレスチナ系はユダヤ人ではありませんし、アメリカ国籍でもユダヤ教に改宗を認められた人であればユダヤ人。
トランプの娘婿クシュナーもアメリカ国籍のユダヤ人ですし、日本人がそれぞれの宗派が定めている手続きに従い、改宗を認められれば、日本国籍のユダヤ人となります。
イスラエルは、古代の民族や王国の名称であり、同時に現在の国名でもあります。
アメリカは多様な移民国家ですから、キリスト教徒やユダヤ教徒以外にイスラム教徒やヒンドゥー教徒、仏教徒など様々な宗教の信者がいますし、神を信じない人もたくさんいます。
また、仮に同じキリスト教徒だとしても、ニューヨークに住む名門大卒のエリートと、先祖代々、中西部に住む保守的な人とでは、宗教観がかなり違います。
親がユダヤ教徒でも本人がユダヤ教徒とは言い切れず、たとえばユダヤ教徒の家庭で生まれたマーク・ザッカーバーグは自らを無神論者だと公言していました。
しかし、彼はそれから仏教徒である中国人の妻を持ち、2015年にはローマ教皇とバチカンで面談しました。彼は「宗教は大切なものだ」とも述べています。
どの宗教を信じるにせよ、アメリカ人にとって宗教は重要かつデリケートな問題です。
「メリークリスマスという挨拶は良くない。なぜなら、他の宗教を信じる人に対して、クリスマスというキリスト教の宗教行事を押しつけることになるから」
こうした考えをもとに、12月には「ハッピーホリデー」という挨拶が交わされるようになったほど、社会と宗教が密接な関係を持っています。
アメリカを知るためには、宗教を理解することが欠かせないのです。