アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。本連載では、世界94カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。

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「情熱のペトロ」と「語学力のパウロ」

 イエス・キリストには弟子が一二人いました。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』に描かれている「十二使徒」です。

 一二人のリーダー、イエスの第一の使徒は漁師出身のペトロ。イエスが罪人とされたときは、裏切ったりする人間臭さがあるペトロですが、すぐに悔い改め、十字架と復活の福音を広めようと情熱的に活動します。

 彼は十字架と復活を広めたキーパーソンの一人であり、伝承によるとローマ皇帝ネロに処刑されます。ネロは暴君ともいわれた皇帝で、キリスト教徒の弾圧で知られています。

 ペトロが殉教したとされる土地に立っているのが、バチカン市国の中心でありローマ・カトリックの総本山「サン・ピエトロ大聖堂」で、ペトロは初代ローマ教皇とされています。

 なお、ペトロは英語ではピーターとなり、キリスト教徒にピーターという名前が多いのも、ペトロに対する敬愛の念があるからでしょう。

 もう一人、覚えておきたい弟子はパウロです。十二使徒のメンバーではなく、イエスとは面識がないといわれています。そんな彼が、なぜキーパーソンなのでしょうか?

 パウロはもともとイエスを弾圧するユダヤ教徒でした。ところが今のシリアのダマスカスに向かう途中で、復活したイエスの声を聞いたことで回心し、キリスト教徒になります。

 そもそもイエス・キリストはアラム語を話す人でした(ヘブライ語を話したとする説もある)。ところが、当時の国際語はギリシャ語。ギリシャ語が話せるパウロが伝道の旅に出たことで、キリスト教はヨーロッパに広まり、世界宗教となるきっかけができました。

 パウロも最後は殉教します。ペトロとパウロが殉教しただけでなく、当初のキリスト教徒はローマ帝国から断続的に弾圧されました。

 キリスト教が徐々にローマ帝国内で広がった理由として、病の人に寄り添い、ケアしたことが挙げられます。栄養や衛生管理によって伝染病の致死率が下がったことで、入信者が増えていったのです。また、キリスト教により嬰児殺しなどもなくなっていきました。

 こうしてキリスト教徒の勢力はもはや侮れなくなり、ついにローマ帝国は三一三年のミラノ勅令でキリスト教を公認。さらに、三九二年にはキリスト教がローマ帝国の国教になります。

 これ以降、キリスト教が他の宗教を排除するヨーロッパの歴史が始まります(もっとも、ヨーロッパ全体にキリスト教が広がるまでには数世紀を要します)。

 また、初期のキリスト教において多大な思想的貢献をした人物として、ローマ帝国がキリスト教を国教化した直後の五世紀初頭に北アフリカを拠点に活躍したアウグスティヌスを忘れるわけにはいきません。

 彼は、キリスト教を国家に奉仕するものではなく、神の国をこの世に出現させるためのものとしました。

 神とイエスと聖霊の三位一体説を体系化したのも彼の功績です。アウグスティヌスの著書である『告白』や『神の国』は、後のルターなどにも影響を与えたといわれます。