絶縁する側に求められる覚悟

 次に、 実際に対象者と縁を切る方法について説明します。

 一番いいのは自分が警察であることを相手が知られないまま自然に関係を解消できること。

「俺、岡山転勤になっちゃって、ごめんね」などと言って目の前から消えます。連絡先を聞かれたら「決まったら連絡する」と言っていなくなる。いつもこちらから連絡する相手であれば、こっちから連絡をしない。これは当然ですね。向こうからかかってくるタイプには3回に1回しか出ないようにして、やがて出ないようにする。こうした対応が考えられます。

「岡山からしばらくは戻ってこない」とか「後任は空きポストだからいない」とか言い訳はいろいろ考えられます。この例のように、地理的な遠さを心理的な距離にしたり、相手がなす術なしという状況を設定したりするのは有効ですね。

 つまり、縁を切るときは、こちらも相当の嘘をつかなければいけません。そして、この嘘がバレないようにしないといけません。私は嘘がバレたことがありませんが、それは状況設定をしっかりつくっているからです。

 実際に私が捜査をしたときの例をご紹介しましょう。ある過激派の集会に出入りしていた高校生が通っていた大学受験向けの予備校に、私も生徒として潜入したことがありました。

 その際に、自分がどんな人間かという設定をしっかりと作りこみました。たとえば、「一度就職したもののT大学への進学を諦めることができず、脱サラして予備校に通っている社会人の受験生」といった具合です。出身地など事細かく設定し、それを演じきりました。ポイントは本当の自分とかけ離れた設定をしないこと。演じきれなくなるからです。

 捜査や関係を切る作業は緊張感のあるものが多くありましたが、現職の公安警察のときは、いざというときには警察であることを明かして解決できるという心理的な強さも確かにありました。民間の人だとゆすられる可能性がありますから、私と状況は状況が違います。

 しかし、民間人の場合でもできることはあります。少なくともこっちから連絡をしない。折り返すのに時間かけるなど、とにかく連絡の頻度を減らす。一度、完全に無視するのも一つの手です。それで、終わる可能性があります。

 そうやって離れていった後に、トラブルになったら警察へ通報したほうがいい。躊躇しない。そこで警察を入れずに交渉しようとすると「100万円で蹴りつけようか」と言われ、100万払った後に今度は「足りない」とゆすられます。だから、必ず警察を入れてください。お金の余裕があれば警察に加えて弁護士にも頼むのもいいでしょう。

 単に警察に相談するだけだと警察が動いてくれるかどうか分かりません。警察は具体的な被害状況を認識できるまでは、しつこく連絡されていることや金の貸し借りについて相談するだけでは取り合ってくれないことが多くあります。