【禁断の情報術】元公安が教える「相手の弱みを握り、自在に動かす方法」 Photo:PIXTA

対スパイ用のスキルはビジネスでもっと活用されてもいい。 そう語るのは、元公安でドラマ『VIVANT』の監修を務めた勝丸円覚さん。公安警察も会社員も人から情報を引き出し、ターゲットを懐柔し、 目的を果たすという点では何ら違いはない。極限の状況で仕事をする公安に「究極の仕事術」を聞く全4回シリーズ。第1回は「メディア情報の活用術」。相手を動かすために「どんな情報を仕入れればいいのか」、そして「どうやってその情報を手に入れるのか」を教えてくれた。(セキュリティコンサルタント 勝丸円覚)

人から情報を得るとき
公安が「最初にすること」

 ビジネスシーンにおいてキーマンやその関係者から「情報を引き出したい」と考える瞬間は少なくないのではないでしょうか。公安の場合は、情報を引き出すことこそが仕事です。 そんな公安にいた私が大切にしている1つの法則があります。それは情報は必ずギブアンドテイクだということ。もしあなたが誰かから情報をもらいたいのであれば、まずはあなたから情報を渡す必要があるのです。当たり前だと思われるかもしれませんが、実践できている人は少ないでしょう。 そして、それを高いレベルでできている人はさらに少ないはずです。

 従って、情報収集は情報を引き出そうとしている相手が「どんな人物」で「何に関心を持っているのか」を考えることから始まります。どんな情報も関心を持たない人にぶつけても意味がありません。では、ターゲットが欲しがってる情報はどのように見つければいいのでしょうか。

 公安時代に私が実際に経験した事例を引き合いに説明しましょう。

 ターゲットは、中古車業を営むパキスタン人。日本の中古車販売業を営んでいる外国人が何を知りたがっているのかをまずは探ります。

 まず公開情報があれば、そこから拾ってきます。中古車販売業というのは、実は許認可事業です。なので、彼らの頭には常に自分が更新手続きの窓口である警察署が自分たちのことをどう見てるのか、具体的に言うとビジネスが継続できるのかといった情報を欲しがっています。

 あと言い方が悪いですけど、やましいことやっているケース もあります。オーバーステイの不法滞在者を置いてたり、従業員のビザがもう切れてたりするので、警察の動きにすごく敏感です。そうした施設はヤードと呼ばれる周囲が鉄壁等で囲まれた作業場であることが多い。海外へ輸出するために、自動車を解体したり、コンテナ詰めをしたりするため、音やにおいがするのでクレームが入ることも日常茶飯事。彼らは日本語があまりできない人が多く、近所との付き合いもありません。

 ですから、あらゆるメディアや自治体の公開情報や警察内のデータベースなどを調べ上げて、同じような外国人の経営者がどんな苦労をしていたか、最近あった警察による取り締まりの報道内容と分析などを彼らに紹介します。もちろん知っていても捜査情報は渡しません。

 情報を収集するメディアは特に決まっておらず、つり革広告で見て雑誌を買うこともあれば、検索エンジンで探すこともあります。方法はみなさんとさほど変わりません。情報収集で私が重宝していたのが、地方紙です。全国紙だと扱うトピックが大きすぎて、ターゲットに刺さりそうな地元の事件や警察の動きは掲載されません。

 こうして手に入れた情報を英語に翻訳してあげることもしましたね。彼らの中には、日本語が苦手なものもいるのでとても喜びます。「お前たちもそろそろ気をつけないといけないよ」みたいな脅かしや煽りも忘れません。「熊谷でもガサやってるからさ、警察も本腰だぞ」という言い方も効きます。最後に念押しするように「何かあったら相談しろよ」と添えることで、ほんの少しでも信頼関係を築いておくとその後のコミュニケーションに繋がりやすくなったりします。
 
 彼らが何を一番恐れているのか、どうなったら困るのかを分析して、仮説を立てる。これがうまくいけば、あとは探すだけです。