アナログな飲食業界をITで変える

 学生起業を経て、2006年にゲームやアプリを開発するスタートアップ・コミュニティファクトリーを設立した松本氏。同社の写真加工アプリ「DECOPIC」は、世界4000万ダウンロードを達成する大ヒットを記録。2012年9月には、同社をヤフーが買収するに至る。ヤフーのモバイル部門を担当した後にメルカリ子会社のソウゾウ、そしてメルペイで新規事業の立ち上げを担当した。

「決済サービスのメルペイを作りながら、その決済を利用してもらうための『キラーコンテンツ』についても事業計画していました。そう考える契機になったのは、中国をはじめとしたアジア圏の動向です。今はスマートフォンを使った決済が、さまざまな行動の基点になっています。だったらメルペイが立ち上がったときに何が必要なのかと考えていました。モビリティなのか、飲食なのかと」(松本氏)

 だがメルペイの開発が進むほどに、よりコンテンツを作ることに注力したいという思いが強くなり、メルペイを離れる決意をしたという。

「メルカリは今、決済という強大なプラットフォームを作っているところです。今のタイミングしかないと考えました。メルペイのUXは一定の評価を頂いたと思っています。僕の得意なのは“ゼロイチ”の立ち上げ。ここから事業を成長させるのは別の人間が適任だと思いました」(松本氏)

 そこで松本氏が注目したのが、メルペイを拡大する中で接点が増えた飲食業界だった。アナログで、深刻な人材不足に陥っている業界だからこそ、ITで効率化できるとにらんだ。

「完全キャッシュレスにしたら、レジで現金を管理する必要がなくなりますよね。オンラインにたまったデータで需給予測もできます。今後はIoTを活用して調理も簡単になるかも知れません。ITでどう生産性を上げるか。今後この効果は莫大なものになってくると思います」(松本氏)

 従業員の連絡にはコミュニケーションツールの「Slack」を導入。日々の連絡や毎日の売り上げデータを共有するようにした。また、目標管理手法の「OKR」や目標達成の振り返り手法である「KPT」といった、IT企業で使われているフレームワークも、試行錯誤しながら店舗に導入しつつあるという。

「ツールを使って情報をオープンにすれば、業務のスピードが上がります。もちろんテクノロジーで変わることもありますが、企業のカルチャーで変わることがあります。スタートアップ企業にはいいところも課題もありますが、とにかく効率を求めますし、『Think big』、つまり世の中を変えようという思いがあります。こういったカルチャーを既存の業界に繋げていくチャレンジに価値があると思っています」(松本氏)