安倍派の「裏金疑惑」捜査は、東京地検特捜部にとって“因縁の対決”だ自民党安倍派のパーティー=2023年5月16日、東京都港区 Photo:JIJI

自民党安倍派の「パーティー券問題」が波紋を広げている。その全容解明に向け、東京地検特捜部が近く事情聴取を始めるとみられる。特捜は「最強の捜査機関」の異名を取り、大物政治家相手に「忖度なき捜査」を展開してきたが、かつて10年ほど“沈黙”を強いられたことがある。かつての安倍政権も深く関わっている、「政党政治vs検察」の因縁に迫る。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

「パーティー券問題」発覚で
安倍派幹部「5人衆」が失脚か

 自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)に所属する議員が、パーティー券収入の一部を“裏金化”していた疑惑が浮上し、岸田文雄政権を揺るがす大問題となっている。岸田首相は問題発覚を受け、裏金を受け取った疑いがある人物を政権の要職から排除する方針を固めた。

 更迭の対象は、松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、萩生田光一党政調会長、高木毅党国会対策委員長。世耕弘成党参院幹事長の交代も検討中だと報じられている。彼らが一掃された暁には、いわゆる安倍派幹部「5人衆」が、岸田内閣および党執行部から姿を消すことになる。

 岸田首相が火消しに追われる一方で、東京地検特捜部が全容解明に向けて動き出した。臨時国会の閉会(12月13日)を待って、“裏金化”に絡んだ疑いがある安倍派議員および幹部の事情聴取を進めるとみられる。

 特捜は「最強の捜査機関」の異名を取り、直近の約4年間で8人の国会議員を汚職で立件してきた。この8人の所属政党は、立件時点で「7人が自民党、1人が公明党」と全員が与党議員だった。今回の件においても、国会議員をターゲットに「忖度なき捜査」を展開するだろう。

 振り返れば、「ロッキード事件」「リクルート事件」「佐川急便事件」など、検察と政党政治の闘いは延々と続いてきた。筆者にとって特に印象深いのは、2008~09年に発覚した「西松建設事件」だ。準大手ゼネコンの西松建設が、自民党や民主党などの大物政治家に違法な献金をしていた事件である。

 西松建設事件が問題視され始めた当時、自民党・麻生太郎内閣の支持率が急落しており、民主党政権への交代が期待されていた。政権交代が実現した場合に、首相就任の可能性が高いとみられていたのは、民主党の代表を務めていた小沢一郎氏だった。