薬剤師31万人 薬局6万店の大淘汰#13Photo:PIXTA
欧州系ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが、調剤薬局大手の総合メディカルグループの買収で合意しました。一部報道によると、買収額は約1700億円となる見通し。調剤薬局は、薬価引き下げが経営の逆風となっており、業界再編が進む可能性があります。薬局M&A事情に迫った2021年12月20日公開の有料会員向け記事を、無料登録会員向けに公開します。全ての内容は取材当時のままです。

「薬局を売るならば早ければ早いほどよい」。薬局M&A業界の関係者はそう口をそろえる。約6万店の淘汰が迫る調剤薬局。薬局の経営者が身売りを検討しても、M&Aの実現までに買い手による“選別”が行われる。特集『薬剤師31万人 薬局6万店の大淘汰』(全13回)の最終回では、薬局のM&A事情と、売れる薬局・売れない薬局「三つの条件」を探った。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

薬局M&Aの世界でも始まった“選別”
「売るならば今が一番高く売れる」

「薬局を売るならば早ければ早いほどよい。今日より高く売れる日は、これから先はやって来ない」

 淘汰の荒波が押し寄せている約6万店の調剤薬局。東京商工リサーチによれば、調剤薬局の2021年1~11月の倒産件数は26件と過去最多に達しており、足元の薬局の経営環境は明るくない(本特集#9『調剤薬局が倒産ラッシュ、「立地条件」が生死を分ける過去最悪コロナ淘汰の惨状』参照)。

 先行きを危ぶんだ薬局の経営者が、倒産や休・廃業よりも先に検討するのは“身売り”だろう。M&Aの仲介を手掛ける業者には、こうした薬局の経営者からの相談が新型コロナウイルスの感染拡大で相次いでいる。

 そして、「薬局の“売り時”はいつか」と経営者に尋ねられた仲介業者の大半は、冒頭のように回答するというのだ。

 実際のところ、近年は薬局のM&Aが活況だ。約6万店の薬局は小規模な店舗が乱立している状態で、調剤薬局最大手のアインホールディングス(HD)であっても店舗数は1163店(10月末時点)とシェアは約2%しかない。

 調剤薬局大手は勢力拡大のためにM&Aを活用しており、アインHD、日本調剤、クオールホールディングスの大手3社が21年度上半期に新規出店した74店のうち、34店がM&Aによるものだ。ある大手調剤薬局の幹部は、「ドミナント展開するチェーンだけでなく、1店舗単位でもM&Aを検討している」と、チャンスがあればM&Aを積極的に仕掛けていく姿勢を明かす。

 それではなぜ、冒頭のように薬局は“今”が一番の売り時なのか。背景には人口減少と診療報酬引き下げという二大潮流がある。

 特に、増大する社会保障費を抑え込むため、薬価をはじめとした診療報酬引き下げの流れは今後も変わらないというのが業界の共通認識。薬局の“稼ぐ力”は将来先細りしていくため、「売るならば今が一番高く売れる」というわけだ。

 そして、身売りを希望する薬局全てに買い手が付くことはもちろんなく“選別”が行われる。

 M&A仲介大手、ファンドブックの谷口慎太郎取締役は、「12~15年ごろは薬局のM&Aが活況で、比較的買い手が付きやすい状況だった。しかし、18年以降は経営努力を行ってきた薬局が買い手に選ばれやすい」と明かす。

 それでは、どんな薬局ならば買い手が現れるのか。薬局のM&Aに詳しい関係者に取材を進めると、「売れる薬局」と「売れない薬局」の明暗を分ける三つの条件が浮かび上がってきた。