定員割れで学生の質が下がり、卒業率や薬剤師国家試験合格率が低迷、さらに受験生から敬遠される。悪循環から抜け出せない淘汰リスクの高い薬学部は?特集『新・理系エリート』(全59回)の#22では、2021年から23年までの3年間の各指標を基に、全国57私立薬学部の「淘汰危険度ランキング」を作成した。( ダイヤモンド編集部 野村聖子)
生き残る大学、消える大学は?
全57薬学部「淘汰危険度ランキング」
来春、新たな薬学部が生まれる。開設するのは順天堂大学(東京)と、国際医療福祉大学(栃木)。国際医療福祉大はすでに栃木の大田原と福岡の大川キャンパスに二つの薬学部を持っているにもかかわらず、医学部のある千葉県の成田市に三つ目を新設するのだ。
薬学部の新設に関しては文部科学省が今年1月25日、2025年度から薬学部の新設や定員増を抑制する方針を盛り込んだ、大学等の設置認可基準を改正する告示案を中央教育審議会大学分科会に提出し、了承されている。来春開設の2大学は、いわば規制前の“駆け込み”だ。
薬学部の規制の理由は主に二つ。まずは06年に薬剤師を養成する薬学部が4年制から6年制になってからというもの、際限なく新設や定員増を行った結果、案の定、少子化が著しい地方を中心に私立大学で定員割れの薬学部が続出したことにある。
恒常的に定員割れが続けば何が起こるのか、簡単に想像がついたはずだ。入試が易しくなるため、入学してくる学生の質が下がる。結果、標準修業年限6年間における薬剤師国家試験の合格率が低迷する。なんと合格率が2割を切る大学も現れた。
6年制の薬学部の使命は薬剤師の輩出にほかならない。複数の私立大学薬学部の現状は、その存在意義を問われてしかるべき事態だ。
そしてマクロで見ると、将来の薬剤師過剰が確実視されている。団塊の世代が後期高齢者となる25年以降は本格的な人口減少時代に突入する。21年に厚生労働省が公表した推計では、45年に薬剤師は最大で12万6000人、少なく見積もっても2万4000人が過剰となる見通しだ。
一部の薬学部の惨憺たる実態、そして将来の薬剤師余りという現実に、これまで際限なき増設を許してきた国も、本格的な規制策を提示。こうして25年以降、薬剤師が不足する地域を例外として、薬学部の新設や定員増は原則的にできなくなったというわけだ。
また、管轄省庁である文科省は、昨年8月に出した「6年制課程における薬学部教育の質保証に関するとりまとめ」内で、標準修業年限内(在学6年間)での卒業率・国家試験合格率が低く、学生が集まらない大学は、今後私学助成金の減額・不交付も辞さない構えを見せた。つまり、6年間での卒業率、国家試験合格率、入学定員充足率が低い薬学部はお取りつぶしの危機にひんしているということだ。
生き残る大学、消える大学はどこか。ダイヤモンド編集部では、過去2回にわたり、前述の文科省のとりまとめ内にある、標準修業年限内の卒業率と薬剤師国家試験合格率、そして入学定員充足率の3指標を用い、「全国薬学部淘汰危険度ランキング」を公開してきた。
今回、10月に発表された「薬学部における修学状況等2023(令和5)年度調査結果」を加味し、最新のランキングを作成。次ページでは、21~23年度における標準修業年限内の卒業率と薬剤師国家試験合格率、入学定員充足率の3指標を用いた、全57薬学部の淘汰危険度ランキングを公開する。