化学物質をめぐる「戦争」も憎悪だらけ
「昔から毒として有名な調味料を使う料理人なんて、どうせ企業からカネをもらっているに違いない」という偏見を抱いているので、リュウジ氏を「人殺し」なんて心ない誹謗中傷をしてしまう。
もちろん、逆も然りだ。これまで見てきたように、「アンチ化学物質」の半世紀に及ぶ歴史がある。アメリカ社会の中では、同様のことを主張している人がいるのも事実だ。「毒」派の皆さんは確かに「ファクト」を無視しているが、そう信じ込むだけの材料が、世界にはあふれている。
それなのに頭ごなしに「頭がおかしい」「反ワクチン教でしょ」と見下すのは、これもレイシズムに近い。
イスラエルやパレスチナ、ロシアやウクライナを見てもわかるように、今起きている「戦争」の背景には、「あいつらは人間じゃない」「対話など無駄だ」という偏見と憎悪の積み重ねがある。スケールは違うが、「味の素」をめぐる「戦争」も同じだ。
異なる価値観の人間に、自分の価値観を押し付けたり、攻撃したりするのはやめて、まずは違いを受け入れて、「対話」からはじめていくべきではないか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)