笑みを浮かべるビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

「人生100年時代」などと言われる昨今、60歳以降どうやって働こうかと思案している人も多いだろう。選択肢の一つが、定年という制度がそもそもない「外資系企業への転職」だ。筆者は48歳、IT業界で長く働いており、日本企業で部長職待遇だった。TOEICは300点台で、正直、英語には苦手意識があり、海外の企業への転職など考えたこともなかったという。しかしここ数年、生成AIや翻訳ツールが急速に進化したこと、コロナ禍でリモートワークが普及し、チャットやメールなどのテキストコミュニケーションとオンライン会議が中心になったことで「AIを駆使すればなんとかなるのでは?」と一念発起。昨年春に米国のスタートアップへの転職に成功し、現在も毎日問題なく仕事をこなしている。筆者が愛用する4つの翻訳ツールと5つの使い方とは?詳しく教えてもらった。(CISOアドバイサー、Netskope Japanエバンジェリスト 大元隆志)

英語の壁が取り除かれることで、チャンスが大きく拡がる

 読者の方々は英語ができない48歳が、東証プライム上場企業の部長級待遇から未上場の外資系スタートアップへ転職すると聞いたらどう反応するだろうか?多くの方々は「やめておけ」と考えるだろう。そもそも英語ができない時点で外資系に転職すること自体のリスクが大きい。そう考えるのが当然だ。

 しかし、AIの進化によって状況は大きく変わった。英語ができなくても、海外企業への転職に挑戦しようと考えられるほどに、翻訳を取り巻く環境が大きく変化しているのだ。

 私が48歳での新たな挑戦の場として選んだのは、米国に本社があり、セキュリティ業界のユニコーン企業として期待されているNetskopeというスタートアップだ。全世界では2700人の従業員規模となっているが日本法人はまだ50名程度。東証プライム上場企業で働く“安定”はなくなるが、世界中から集められたトップレベルの仲間と共に、進化するサイバー攻撃と戦うという挑戦ができる。これまでにも「憧れ」のような気持ちでこういう海外のスタートアップを見ていたが、「英語」が壁となり面接を受けようと考えたこともなかった。

 それが、AIの進化が筆者の背中を押したのだ。

翻訳技術が劇的に進化、日々の仕事に使えるレベルになってきた

 コンピュータに言語を翻訳させようという試み(機械翻訳)は昔からあり、1970年代から実用化されているそうだ。しかし昔と今とでは使われている技術がまったく異なり、翻訳の品質もほぼ別物といっていい。機械翻訳の技術の進化を簡潔に説明すると、統計的機械翻訳(SMT)、ニューラル機械翻訳(NMT)、そしてOpenAIが開発したGPT(Generative Pretrained Transformer)が挙げられる。

 SMTは機械翻訳の初期の頃に使われていた技術で、主に単語レベルの翻訳で文法はめちゃくちゃ、「なんとなく元の文章の雰囲気くらいは分かる」というレベルの翻訳精度だった。SMTしかない時代であれば、英語ができないのに外資系企業に転職するなどとは考えもしなかっただろう。

 これが劇的に変化したのが、2016年にGoogleが提供を開始したNMTを利用した翻訳サービスだ。単語レベルではなく、文法を理解した上で、自然な文章で翻訳することが可能になった。NMTによる翻訳精度は非常に高いのだが、翻訳元となる文章自体に誤字脱字がなく、文法も正しい「正しい文書」である時しか効果を発揮しない。このため、公式な文書の翻訳等には適していたが、でたらめな文法や略語、スラングなどが普通に使われるメールやチャットなど、人の会話の翻訳に使うと翻訳精度が低下していた。

 これを補うことができるようになったのが、「文脈」を理解するGPTの登場だった。ChatGPTは生成AIとして知られるが、実は多言語の翻訳に対応している。しかもNMTが苦手だった口語文も理解する。多少文法を間違えたり、単語のスペルを打ち間違えて入力した文章でも、「文脈」を判断して元の文章の意図をくみ取り、“それっぽい”翻訳を行うことが可能になったのである。

 次のページからは、私がどのようにして「英語」を克服しているのか、日常的に利用しているツールとその使い方を4つ紹介する。