ChatGPTを筆頭に、誰でも使える技術としてすっかり身近になった生成AI。この連載では、生成AIを実際の業務に活用している企業に取材を行い、どのように導入・利用しているのかを詳しく取材していく。今回、第1回として取りあげるのは、出版社のワン・パブリッシングだ。同社が9月末に発売した『生成AI導入の教科書』は、企業が生成AIを導入、活用するためのヒントやコツについてまとめた書籍である。実はこの本、原稿約11万字のうち、7~8割に当たる文章がテキスト生成AI「ChatGPT」を利用して執筆されている。編集に要する時間も大幅に削減でき、通常同社では書籍の企画から発売まで半年~1年かかるところを、わずか3カ月弱で発売に漕ぎ着けた。さらに、この本の最後の章には8本のインタビューが載っているのだが、午前中に取材を行い、15時頃には原稿提出というスピード感だったという。どうしたら、そんなスピードでインタビュー記事を書き上げることができるのか? その秘密も聞いてきた。(ITライター 柳谷智宣)
288ページ、約11万字の本が3カ月弱で完成
11万字を1週間程度で書き上げた
小澤健祐 著
書籍『生成AI導入の教科書』の発売日は9月28日なのだが、企画がスタートしたのはなんと6月下旬とのこと。通常、一般的な書籍だと出版までに半年から1年はかかるので、3カ月もかからずに本ができたというのだから驚きの速さである。通常の半分~4分の1の期間で出版にこぎつけているのだ。執筆に費やしたのはさらに短い時間で、約11万字を1週間程度で書き上げたという。
とはいっても「生成AI導入の教科書を書いて」とChatGPTに入力しても、原稿ができるわけはない。筆者も『生成AI導入の教科書』を読んでみたのだが、内容も文章もAIが書いているとは思えないものだった。いかにして、ChatGPTを使って執筆したのだろうか。ライターである筆者としては、恐ろしい話&興味津々のテーマでもある。
ChatGPTをどのように執筆・編集に活用したのか? 『生成AI導入の教科書』著者である小澤健祐氏と、担当編集であるワン・パブリッシング取締役兼メディアビジネス本部長兼第1メディアプロデュース部長 松井謙介氏に取材した。
「なぜChatGPTで原稿を書くのか」という質問は
「なぜWordで原稿を書くのか」と聞くのと同じ
「世の中にAIの書籍が増えている中で、本質的に企業が生成AIを導入するとどう変わるのかを解説した本は今のところないよね、という話になりました。そこで、小澤さんの経験から解説いただきまして、すでにAIを導入している企業や有識者への取材を通して、本質的なAI導入の可能性を伝える一冊になっています」(松井氏)
小澤氏がChatGPTを利用して執筆すると宣言したり、松井氏がChatGPT利用の許可を出したりといったことはなかったという。当たり前のように小澤氏はChatGPTを活用して、執筆を進めていった。
なぜ、ChatGPTを書籍の執筆に使おうと思ったのか?と質問すると「それは、執筆にWordを使う理由を聞いているのと同じ」との答えだった。小澤氏は1995年生まれの27歳。2017年からAI専門メディア AINOWの編集長として活躍しており、1000本以上のAI関連記事を制作・編集してきた経験を持つ。ChatGPTも昨年11月に登場した時から仕事で普段使いしているそうだ。
「ChatGPTを使わないという選択肢はありませんでした。普段から記事を書いたり、文書を作成したりする時は基本的にChatGPTを使っていますし、何ならメールの文章も書かせています。執筆にChatGPTを使ったのは、もはや理由もありません」(小澤氏)
執筆には主にChatGPTを利用し、一部、情報収集に「Bard」や「Perplexity AI」といった生成AIを利用したという。ChatGPTと異なり、BardやPerplexity AIは出力に出典が表示されるためだ。