能登半島地震で否定された「大地震→円高」の経験則、日本経済と為替相場の今後のポイントPhoto:SANKEI

期待・思惑の予想はギャンブル
今こそ見るべきファンダメンタルズ

 2024年の初日(1月1日)、石川県能登地方を震源とする最大震度7の地震(能登半島地震)が発生した。同地震により犠牲となられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに、被災された皆さまに心からお見舞い申し上げたい。

 大規模地震やテロといった予期せぬ災害は、経済活動を変化させるとともに、将来に対する期待や思惑の変化を通じて金融市場にも影響を与える。ここで注意すべきは、災害に対する金融市場の反応は、短期間であれば市場参加者の期待・思惑に大きく依存するものの、時間とともに経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)の変化に従った動きになるということだ。

 一般に金融市場は、予期せぬ災害が発生すると、リスクを回避する動きが強まるとの期待・思惑から(いわゆる)リスクオフの動きになるといわれている。しかし市場関係者の期待・思惑は、なんらかの指標やデータなどで明示されるわけではない。また、期待・思惑は人々の認識や感覚などさまざまな要因で形成されるため、過去の経験や理論・理屈通りの結果になるとは言い切れない。

 例として、能登半島地震が発生した直後の円相場を振り返ってみよう。能登半島地震発生当初、一部メディアやSNSでは、過去の震災時の経験を基に日本企業のリパトリ(本国への資金環流)観測が高まるとの期待・思惑から、短期的には円高に振れる可能性があるとの見方が示された。

 しかし、実際の円相場は逆の反応となった。昨年末に141円ちょうど近辺で終わったドル円は、1月2日に142円台前半、3日に143円台後半、4日には144円台後半と1円幅で上昇。そして1月5日夜には146円ちょうど近辺まで円安が進んだ。つまり、能登半島地震を機に対ドルで5円も円安が進んだことになる。

 筆者は市場参加者の期待・思惑を根拠としたトレードを否定しない。ただ、市場参加者の期待・思惑を合理的に予想できないトレードは、直感に基づいたギャンブルの色彩が強いものと考える。ギャンブル性を排除しつつ災害発生を契機としたトレードをしたいのであれば、短期的な期待・思惑の動きにとらわれず、災害発生によるファンダメンタルズの変化に注目する方が合理的と思われる。