ヒートショックを起こさない室温は?香川、大分、鳥取……温暖な地域ほど要注意朝は部屋の中の寒暖差で、血圧が急激に上がりやすい (写真はイメージです) Photo:PIXTA

朝晩の冷え込みが厳しいこの季節、中高年が特に注意したいのが、ヒートショックだ。ヒートショックは、急激な温度変化によって心筋梗塞、脳卒中、大動脈解離などを起こすこと。交通事故による年間死亡者数(2023年は2678人)を大きく上回り、年間約1万9000人が入浴中に命を落としているとの推計結果もある。防ぐためには、自宅の室温がカギを握ることが国内外の研究で明らかになってきた。(取材・文/医療ライター 福島安紀)

冬に血圧が急上昇し
ヒートショックが増えるワケは?

 朝、暖かい布団から出たときに素足で歩いたり、寒い廊下や居間へ行ってぶるぶる震えたりしていないだろうか。

「もしも、中高年が冬に毎朝そんなことを繰り返しているとしたら、ヒートショックを起こしやすく、とても危険です。暖かいところから急に寒いところへ行くと手足の末梢血管が収縮して血圧が急上昇し、血管や心臓に負担がかかって心筋梗塞、脳卒中、大動脈解離などの心血管疾患を起こしやすくなります」と自治医科大学循環器内科学部門教授の苅尾七臣(かりおかずおみ)先生は指摘する。

 特に、朝は部屋の中の寒暖差で血圧が急激に上がりやすい時間帯だ。健康な日本人146人を対象にした研究で、暖房のきいた部屋(室温18℃以上)で過ごしたグループは、室温が低い部屋(平均室温13.9℃)にいたグループより、朝の収縮期血圧(最高血圧)が明らかに低く抑えられたとの報告もある(Saeki K et al. 2013)。

「つまり、血圧の急上昇とヒートショックを防ぐためには、起床時に寝室や居間、廊下も含めて室温を最低でも18℃以上に暖めることが重要です。高齢者の場合には室温を20℃以上に保った方が血圧の変動が少なくなります」

 WHO(世界保健機関)は、2018年に「住まいと健康に関するガイドライン(Housing and Health guidelines)」を出し、心血管疾患とCOPD(慢性閉そく性肺疾患)やぜんそくなどの呼吸器系疾患から身を守るために、冬の室温を最低でも18℃以上にすることを勧告している。

 英国はいち早く、ヒートショックなど寒さによる健康被害を減らすための寒冷気象計画を2011年に策定した。室温を18℃以上に保つことを呼びかけているほか、健康を守り被害を減らす投資として住宅断熱改修、貧困層の暖房燃料クーポンの配布などの対策を進めている。

 ところが、日本では、自宅の部屋の寒さと寒暖差が高血圧や心血管疾患、呼吸器系疾患のリスクを上げることがあまり知られていないためか、室温が低い家が多いのが実情だ。

 苅尾先生が副委員長を務める、国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進調査委員会が、2014~18年度の冬季(11~3月)に、全国の約2500世帯、5000人以上を対象に実施した調査の結果では、なんと、90%以上の家庭の室温が18℃を下回っていた。

 この調査の参加者が自宅の居間、寝室、浴室の脱衣所にいるときの平均室温は、それぞれ16.8℃、12.8℃、13.0℃だったという。日本では冬の室温対策が遅れており、ほとんどの家でヒートショックを起こしやすい状況になっている可能性があるわけだ。