大手生命保険会社とシャドーバンクの関係

 中植の破産によって、信託商品などに“暗黙の政府保証”が付いているという思い込みは低下したはずだ。

 中国の金融業界では、4大国有銀行など大手行は、相対的に信用力が高い国有・国営企業への融資を優先する傾向が強い。一方、信用力が低い中小企業、民間企業、地方政府傘下の融資平台などに貸し出しを行ってきたのがシャドーバンクだ。

 シャドーバンキングとは一般的に、通常の銀行融資を受けられない相手に、高金利で貸し付けたり、投資したりする手法をいう。資金源は、銀行が販売する金融商品であり、商品の多くが短期間で償還を迎える。

 中国ではシャドーバンクの重要性が高まるにつれ、信託商品などの元利金支払いが遅れると、「政府が支払いを保証するはずだ」との希望的観測が増えた。リーマンショック後はさらに、暗黙の政府保証への期待が高まった。

 その典型例が、中国の大手生命保険会社だ。18年以前は、信託商品のリスクの高さ、投資先企業の事業内容の不透明さなどを理由に、シャドーバンクに資金を貸し付ける生命保険会社は少なかったといわれる。ところが、18年頃から徐々に大手生保はシャドーバンクへの投資を増やした。信託商品などのデフォルト懸念が高まれば、政府が救済に動くという思い込みがあったのかもしれない。

 しかし、中植の破産によって、暗黙の政府保証はあくまでも思い込みにすぎなかったことが明確になった。北京の裁判所は、「中植は“明らかに”返済能力を欠いた」と厳しく指摘している。

 23年11月の時点で、中国の不動産やシャドーバンクの専門家の間では、中植の不良債権問題に起因する投資家の損失額がおよそ560億ドル(8兆1200億円)に達するとの見方があった。

 一方、中国政府も無策だったわけではない。23年11月、国家金融監督管理総局(NFRA)は信託会社などへの監督を厳格化した。

 ただ、中国政府は、資金繰りが悪化したシャドーバンク企業に公的資金を注入し、投資家を守るところまでは踏み込まなかった。中植の顧客の多くが富裕層であったため、同社の破産は金融システムに深刻な影響を与えないと判断したのかもしれない。

 中植は、返済能力を欠いたまま放置された。破産をきっかけに、暗黙の政府保証への懸念は高まった。政府の対応の遅さを改めて認識する主要投資家は増えている。