実際にフルで試合を観た多くの人が持つ、誰が誰にパスを回して、誰のドリブルがよくて、といった感想は、観ているその瞬間は心動かされるかもしれないが、結局脳裏に焼きつくのは決定的なシーン=ハイライトとして放送されるシーンだ。コアなファンを除けば、フルで試合を観ようが、ハイライトだけを観ようが、口にするシーンは同じなのである。

 もちろん、フルで試合を観ることで得られる興奮や感動、現地に足を運んだときの熱気や一体感といったトキ消費を否定しているわけではなく、あくまでもコミュニケーションツールとなる情報量の話をしているという点に留意する必要がある。

 では、野球はどうだろうか。先日筆者はとある新聞の取材で「サッカーより野球のほうがタイパがいいですよね?」といった旨の質問を受けた。

サッカーだろうが野球だろうが
スポーツ観戦自体、タイパが悪い

 その記者いわく、プレーの山場がわかりやすい特性上、サッカーなどと比べてながら見が可能で、「実はタイパがよいのでは」というのだ。たしかに、詳しくない層からすれば、サッカーはゲームの動きが単調と感じてしまうかもしれないし、楽しいのはゴールが入る瞬間だけかもしれない。

 一方、野球は攻撃と守りが明確に決まっていて、攻撃のときは「打つように応援する」し、守備のときは「打たれないように応援する」という、応援する側も自分が何をすべきなのか明確な点がメリハリを生んでいるともいえるかもしれない。

 また、野球はチーム戦とはいえども、投手と打者の一対一の戦いとしての側面が強い。打順が決まっていて、お目当ての選手が活躍する(スポットが当たる)タイミングがわかるため、例えば大谷翔平の打席だけ観たいと思ったら、ながら見でもいつごろ大谷が打席に立つのかがわかる。彼に打順が回ったら作業の手を止め、その打席だけテレビに熱い視線を送ることができるのだ。

 このような側面から見れば野球はタイパがよいといえるのかもしれないが、そうはいえない側面もある。それはプレー時間だ。サッカーは前後半合わせて90分と、それで決着がつかなければ延長戦とPKで勝者を決めるというフローが存在するが、野球は試合が終わってみなきゃ、試合にどのくらいの時間がかかるのかわからない。