幼いころから苦労知らずの
根拠のない自信

ところが、私はそのときのことをはっきりと覚えていません。あまりにショックが大きすぎて、そのころの記憶を全部消し去ろうとする力が働いたのではないかと感じます。

忘れないと、私はこれまで生きてこられなかったのかもしれません。離婚したときは、ただただ相手と3人の子どもたちに申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。

でも、私には裕福な実家がついているという潜在的な意識が働いていたのでしょう。経済的に困窮するというイメージは、幼いころからそれまで持ったことがありませんでした。

お金持ち育ちの
脳天気なシングルマザー?

実際、離婚してシングルマザーになったとはいえ、お金についての苦労はありませんでした。

「これから母子家庭で頑張る!」という気持ちではありましたが、離婚して移り住んだ場所は、父が所有していた150㎡の広々としたマンションです。

しかも、父の会社の役員に名を連ねていたので、役員報酬という名目で生活費も親がかりでした。

離婚よりも
はるかにショックなこと

離婚といえば、まず経済的な心配をするのが普通でしょう。

実家をあてにすることができない状態で離婚した女性たちに比べれば、まったくの甘ちゃんで、今思えば、自分ですらちゃんちゃらおかしいと感じます。

正直に言って、私にとって父の会社の倒産は、離婚よりもはるかにショックでした。

お金に苦労したことのない私が
なにより怖かったこと

幼いころからあって当然と思っていたもの、自分にとっていちばんのよりどころであったものが突然なくなったのです。

お金に苦労したことがないだけに、何よりもお金に困ることが恐怖でした。

たぶん、あのころの私は何が売れるのか、いくらで売れるのか、売ったお金を優先的にまわすべきなのはどこか、お金の算段ばかりに明け暮れて満足に眠ってはいなかったと思います。

でも、その記憶は私にはないのです。あまりにつらすぎて忘れ去りたかったから。

※本稿は『71歳、団地住まい 毎朝、起きるのが楽しい「ひとり暮らし」』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。