「あんたさ、この人が中国人だから作りたくないんだろ?差別だよな!そんなことしていると、普通に仕事できなくなるぞ、おい!SNSにでもマスコミにでもなんでもぶちまけてやろうか?」

「それは脅迫ですか?」

 手続き上必要な確認をしていただけなのだが、私も内心腹を立て多少語気が荒くなった。それが自称「法律専門家」の逆鱗(げきりん)に触れたらしい。感染防止のために遮っていた目の前のアクリルボードをたたき落とし、2度、3度踏みつけると、立ち上がって叫び出した。

「脅迫だと?ふざけんなよ!何様なんだよ!銀行が客にそんな口の利き方していいのか?あ?」

「恐れ入りますが、銀行の設備でございます。乱暴になさいますと、私どもはこれ以上お話を続けることはできません。第三者を間に入れさせていただきますが」

「あん?第三者って誰だよ!」

「警察でございます。よろしいでしょうか?」

「警察?勝手に呼べばいいじゃないか。むしろあんたたちの人種差別を訴えてやるからな」

「かしこまりました。少し失礼します」

駆け付けた警察官の
がっかりする対応

 立ち上がり自分のデスクに戻ると、副支店長が防犯カメラのモニターを見ながらオロオロしていた。

「あ、目黒課長?大丈夫ですか?ロビーからすごい音がしたもんで来ましたが、なんか差別とか言ってるじゃないですか。人権がらみで訴えられると厄介なことに…」

「副支店長、そんなことより器物損壊ですよ。警察呼びます」

 ものの2~3分もたたないうちに、3人の警官が飛び込んできた。こちらには何の事情聴取もないまま、警官たちは2人を応接室に押し込めた。すると5分もたたないうちに、二人組と警官は談笑しながら出てきた。

 最後尾の警官がレシーバーで話しながら、バインダーに挟んだ書類へ書き殴り、私の方に歩み寄ってきた。

「口座は作らないそうですよ。やめたって言ってました」

「それだけですか?」

「は、はい…」

「いや、そうじゃなくて、うちはパーティションのアクリルボードを割られたんですよ」

「ああ、上着の袖が引っかかって落ちたら割れたと言ってましたが…」

「いや、そうじゃなくて、床にたたき落として踏みつけて割ったんですよ。防犯カメラの映像、お見せしますよ!」

「いや、見ても分からんですよ。わざとじゃないって言ってるんですから。課長さんはどうしたいんですか?被害届を出すんですか?受けることは受けますけど、弁償してもらえる保証はないですよ。それに時間もかかりますしね。わざとなのかそうではないのかなんて、なかなか分かりませんよ」

 後ろを振り返ることもなく、店を出て行った。