発覚した中国籍の男と
自称司法書士の正体
その日の夕方、所轄の警察署刑事課から私あてに電話が入った。
「いや、課長さんご苦労さまです。今日は駅前交番の巡査がお世話になりました。あの、ちょっと伺いたいことがございまして。昼間の二人組なんですが…」
「はい、どうかされましたか?」
「本人確認資料で銀行さんに見せたと思われます在留カード、それに司法書士でしたかね、その司法書士証も偽造であることが分かりまして」
(ほら、言わんこっちゃない…)
「今、行方を追っているんですが、詳しいお話を聞かせていただけませんでしょうか?防犯カメラの映像をSDカードに移して送ってもらえると…」
「刑事さん、お巡りさんたちはこちらの話を全く聞きませんでしたよ」
「でも、銀行さんは口座を作らずに済んだじゃないですか。まあ、実害がなかったわけですし」
「実害?ありましたよ。パーティションを壊されました」
「プラスチックの仕切りでしょ?」
明らかに「そんな安物、どうでもいいでしょ?」と言わんばかりの口ぶりだ。
「なんで銀行側の話を聞いてもらえなかったんですかね?もしこちらの状況を分かっていたら、もっと詳しくやつらに事情を聴けたかもしれなかったですよね」
「それは…タラレバの話ですよ。まあ、いいじゃないですか。彼らはもう、そちらの支店には行きませんよ。安心してください」
こうした経験は何回かあるのだが、警察がしっかりと対応してくれたことは一度もない。私にとって、警察という組織はいつもこんな感じだ。余計なことはしてくれるが、こちらが望むことは何ひとつしてくれない。
私自身が刑事ドラマの見過ぎなのだろうか。私の中での刑事のイメージは、足を棒にして犯人の手がかりを聞き込み、車の中で張り込み、捜査会議で警察手帳に必死で書き込み、埠頭の倉庫で逃げる犯人を追い詰め銃撃戦の後、後ろ手に手錠をかけるヒーローだ。しかし、リアルな姿には本当にがっかりさせられる。刑事や警察に落胆させられたエピソードは、拙著「メガバンク銀行員ぐだぐだ日記」にも多々記してある。
目黒冬弥 著
では、銀行はどうか。やはり半沢直樹のような、痛快に悪の陰謀を暴き、倍返しして懲らしめるような銀行員はいないのである。どこも同じことか…。
近年、私の周囲では、このような犯罪予備軍やクレームが複数同時進行し、その疲れもあるのか、正月休みもなかなか寝床から起き上がれない日が続いた。新年の仕事始めを過ぎても、ストレスで口内炎がひどくなるばかり。この連載の執筆も滞りがちになってしまった。
この長い年月、本当に多くの出来事があった。つらいことも、喜びも。そして今日も、私はこの銀行に感謝しながら勤務している。
(現役行員 目黒冬弥)