1万人の社員がいる会社では、メールやチャットなどで毎日数十万件のメッセージが飛び交っている。人間がその全てのメッセージを確認して、問題のあるメッセージを探しだすのは物理的に不可能だ。だが最新AIでパワハラなどの不正なメッセージを発見できるようになったという。(イトモス研究所所長 小倉健一)
大量のメールをAIが解析
あぶり出された「パワハラ」の実態
「ボケッとして、人から指示があるまでダラダラ待っているんじゃないよ!」
「私を試していますか? それとも喧嘩売ってますか?」
「人の指示通り、ちゃんと記入しろよ! 小学生でもできることもできないのか? 情けなくないのか?」
こんなパワハラめいたメッセージを送ったこと、または受け取ったこと、話してしまったこと、怒鳴られたことはないだろうか。(あなたが上司であれば)幸か(部下であれば)不幸か、こうしたメッセージのやりとりは、膨大な情報の海に沈められて、日の目を見ることが少なかったようだ。
今、現代の社会人は、1人当たり1日14.06通のメッセージを送信している。一般社団法人日本ビジネスメール協会の2020年の調査だ。現在、2024年であり、メールに加え、チャットを利用することも増えたことから、「1日1人当たり数十件、1万人の社員がいる会社では数十万件のメッセージが飛び交っている」(FRONTEOの早川徹也氏)ことになる。そんな中、パワハラめいた発言やパワハラの実態が見え隠れするメッセージは、「数十万件中100件程度」(早川氏)だという。
毎日、数十万件のメッセージに、パワハラ案件が潜んでいることは、うすうす感じていたとしても、それらをチェックするのは物理的に不可能だった。しかし、時代は変わった。
大量のメールに、LINEなどのチャット、さらにはテキスト化された通話音声などの膨大な量のデータを、AIが文脈を理解した上で解析し、パワハラなどの不正なメッセージを発見してくれるようになったのだ。AIの開発および本事業を手掛けるのがFRONTEOだ。人間には気付くことができないでいた「パワハラ」の実態があぶり出されているという。
パワハラをしている人は
必ず「痕跡」を残している
「職場でラーメンを食べることすら『ヌーハラ(ヌードルハラスメント)』としてビジネス誌の特集になる時代です。労働集約型(人間の労力を大量に必要とする)産業であれば、従業員のモチベーションに常に気を遣う必要があります。特に、今は人材の争奪戦です。パワハラを受けたまま、有能な人材が何も言わずに出ていってしまうようなことは絶対に阻止しなくてはいけません。人間の目では発見しにくい膨大なやりとりでも、AIの目はごまかせません。AIが監視していることを知っていても、パワハラをしている人物は必ずメッセージや電話のやりとりのどこかに『パワハラの痕跡』を残してしまうものなのです」(FRONTEOの後藤英治氏)
今回、FRONTEOに依頼し、最近起きたパワハラメッセージ(パワハラスコアの高いメッセージ)を摘出した。いずれも、東証のプライム市場に上場する大企業でのやり取りだ。プライバシー保護の観点から一部を加工している。