ソファで寝転がりながらスマホに手を伸ばす男性写真はイメージです Photo:PIXTA

会社が社員に配布した業務用のスマートフォンにはチャットアプリが入っており、スピーディーにやりとりをすることができる。ある上司が「緊急時の連絡のため、会社のスマホの電源は勤務時間終了後や休日も切らないこと」と部下に命じた。しかも、業務命令として「チャットの返事は即返すこと」という。上司からのチャット攻撃がウザいからと勤務時間外に電源を切ったら、それは業務命令違反になるのだろうか?(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
総従業員数300人の専門商社。東京本社の他、大阪に支社がある
<登場人物>
A:本社営業部営業第1課主任、30歳
B:営業1課の課長でAの上司。以前は大阪支社の営業課長だったが、人事異動により今年7月から現職。40歳
C:営業部長、50歳
D:総務部長。本社の労務管理を取り仕切っている。50歳
E:甲社の顧問社労士

業務用のスマートフォンは
夜や休日も電源を切らないように

 7月上旬の朝礼終了後、B課長は20人の部下たちを集めた。

「皆さんが今まで使っていた業務用スマホですが、古い機種で使い勝手が悪いので交換します。今日からこれを使ってください」と言い、新しい業務用スマホを配って使用方法を説明した。

「このスマホには、チャットアプリがインストールされています。これからは原則、課全体および私と皆さん個人との業務連絡などは、チャットを通じて行います。それとスマホは緊急時の連絡のため、勤務時間の終了後や休日も電源を切らないようにしてください」

 と付け加えた。B課長の指示を聞いていたAは嫌な予感がした。

「前の課長の時は、仕事が終わったら電源を切るように言われていたのに。何か変だぞ」

 B課長はその後、チャット内で各メンバーに自らが担当している顧客との取引進捗状況や1日の活動予定などの報告を求め、その返答を受け取ると即座に細かい指示やコメントを返した。メンバーからの返信が遅れると「早く返事をしてください!」などと連打し、双方のやり取りは1日数十回に及ぶこともあった。また、前任の課長が行っていた週1回の全体ミーティングと個人面談がなくなったかわりに、課全体用のチャットに「営業活動の目標」「反省点」などの題目で毎日10回以上も自分の考えを長文で書き連ねた挙げ句、その都度メンバーからの意見を求めた。