こうした特性ゆえ、先々は高校、大学へと進学し、周囲に溶け込み、時にはサークル活動をこなし、どこかの企業に就職し……という、世間で言うところの「ごく普通の進路」を歩ませることが困難と見ているからだ。

「人との距離が近すぎる」
担任に言われて気づいたこと

 そもそも、タナカさん夫婦が自分たちの子がよその子たちと、「どこか違う」と感じたのは、娘が小学校5年生のとき、クラスでいじめやからかいを受けていたことがわかったときの話である。

 誰にでも優しく話しかける。積極的に友達を作ろうとする。しかし、親の目から見ても、その人と人の距離は「時として踏み込み過ぎでは?」と感じることもあった。子ども同士ならいざしらず、同じマンションに住む住民、挙句の果てには買い物にいった店のスタッフ、バス停で待つ大人にも積極的に話しかける。

「ちょっと人と人との距離が近すぎるような気がして……」

 学校で娘はクラスに溶け込んでいると思い込んでいたタナカさん夫婦だが、保護者懇談会の席上、担任教師から「クラスの児童の間で浮いている」「友達同士、何人かグループがあるが、その輪のなかに無理やり入ろうとする」といった行動が目に余るといった話を聞く。やがて、それがからかいとなり、いつしかいじめへと発展したというのが担任の言い分だった。

 その若い女性の担任教師は、意を決したかのように、タナカさんの妻にこう語り、懇談会を締めくくった。

「お宅の娘さん、ずっとしゃべりっぱなしです。私にもそう。クラスの子どもたちのうち、お友達と思った子にはずっとべったりくっついてしゃべりっぱなしなんです。これだと正直、誰でも鬱陶しいと思いますよね?」

 タナカさん夫婦にすると、「この物言いは教育者としてどうか」と思ったものの、確かに娘は、家でもずっとしゃべりぱなしである。特に妻のほうには、ずっとべったりくっついている。妻のストレスは溜まる一方だ。何とかしなければとは思っていたが、どう何とかすればいいのかわからなかったというのが、正直なところだった。

 そうした事情もあり、妻から担任教師が娘についてこう話していると聞いた際、合点が行くところもあった。妻は担任教師から「児童の療育や精神科といったクリニックへの受診」を勧められたという。