山口 大石さんのメンタルブロックは「今はお金がない」ということではありませんか。でも、大石さんが30歳になったとき、モロッコに対する関心が今と同じように強い保証はありません。だからお金で時間を買うほうがいいかもしれない。
本にも書きましたが、僕はお金を価値(バリュー)と信用(クレジット)という概念で説明しています。客観的にみて大石さんはクレジットが高い。東大法学部、容姿、高いコミュニケーション能力が、その主な理由です。クレジットをお金に換えることをキャピタライズといいますが、さきほどのピカソの小切手のエピソードは、クレジットがキャピタライズされてマネーに換わった好例です。この知識を知っておくことで、時間を加速化して生きることができるのではないかと思っています。大石さんはキャピタライズできる可能性を持った人だと思うので、有志でファンドをつくって資金を集めれば、モロッコの邸宅を買える可能性もないわけではない。
大石 たしかに、ファンドのことは考えていました。ただ、クレジットを得るためには、ある程度実力をつけてからでないと難しいですよね。
クレジットと同時に大事なのは「豊かさ」に浴すること
山口 はい。クレジットを得るには、能力と実績、教養が大切です。僕が新卒で就職したときの上司は、当時35歳の優秀な女性でした。彼女が僕に言ったのは、たったふたつのことです。1. 本、とりわけ古典を読んで、教養を身につけなさい。2. コンビニの店員さんには、目を見てありがとうと言いなさい。これだけです。
彼女はもちろん優秀でしたが、僕にはそれ以外の面が見えました。豊かさと余裕に満ちた姿です。彼女に仕事が集まってきたのは、豊かさと余裕があったからだと僕は思っています。ただ、このメカニズムはわかっていません。
大石 豊かさがクレジット(信用)につながるということですか。
山口 はい。大石さんは、モロッコのホテルで豊かさに満ちた体験をされたのですから、これから先も、豊かさに浴(よく)することができる環境にいたほうがいいと思いますよ。豊かさというのは、物心両面という意味ですけどね。
大石 物質的に満たされれば、精神的にも余裕ができて豊かさが手に入るということでしょうか。
山口 お金の有無が関係ないとは言いませんが、お金持ちのでっぷりと太った底意地の悪い社長が、1日に何百万円も飲み屋で使う生活を、豊かとは言えませんよね。しかし品格があって、雰囲気があって、良いものを見る目があるという「豊かな人」がいる。就職でも人付き合いでも何かを選ぶときは、豊かさに満ちているほうにできるだけ寄っていたほうがいい。その豊かさはお金ではなく、大石さんが体験したホテルのように、直感的に感じたものでいいのです。そのためにお金が必要なのであれば、前借りしてでも豊かさとつながることが大事だと思いますよ。
大石 お金持ちになりたかったら、できるだけお金持ちのいる場所に行けということをよく聞きます。そういう意味もあるのでしょうか。
山口 たしかに、そういう意味もあります。でも豊かさはお金と同義ではない。