お金があっても豊かさであるとは限らない

山口 豊かさについて、もう少しお話ししましょう。

 この世の中は、縦軸をお金、横軸を愛とする座標で表現することができます。お金は言語化できる条件の世界、愛は言語化も可視化もできない無条件の世界です。

大石 お金と愛の軸は、どちらも抽象的な概念だと思いますが、愛のほうがより定義が難しいですよね。

山口 定義できないものの本質を愛といいます。それに対してお金は条件であり、数値化、客観化できるものです。すべての行動や価値観は、このお金と愛の座標のどこかに位置すると考えていい。ものごとは条件と無条件の間に漂うものです。たとえば世の中は「白か黒か」見極めにくい、45°(度)線の周辺にあることが多い。しかし先ほどのフェズの町でお金を取る子どもたちは、物質的に満たされていないのでお金の座標が低く、それがゆえに心まで蹂躙されるので愛の座標も低いところで生きているかもしれない。一方、たとえお金を持っていても、記号としてのお金があるだけで思いのない人は愛の座標が低く、お金の座標が高い位置にいる。

大石 なるほど。

山口 その一方で、愛の座標が高く、お金の座標が低い人もいます。もちろん、どちらがいいということではありませんが、豊かさというのは、愛とお金の座標がゼロの地点から波紋が広がるように伸びていくものだと思うんですね。お金があるから豊かなわけではないし、愛だけで自分を維持することができるとは限りません。事業で成功してうなるほどお金を持っていても、人に対する同情や共感が欠けていたり、品がない人はたくさんいるわけです。

大石 私は、愛の座標が高いところで生きていきたいですね。

山口 そう見えますね。それが培われたのは家庭環境ですか。

大石 小さいころ、毎年海外のリゾートに連れていってもらって、最高のホテルに泊まっていました。そこで、愛にあふれた豊かな時間を体験できたことが大きいかもしれませんね。私の家庭は、家や普段の生活を豪華にするという発想はなく、1年間のうち父が休暇を取る2週間に豊かさをギュっと凝縮するような家でした。だからなのか、お金に執着する価値観はなく、物心ついたときから、愛や精神的な豊かさに価値を見出してきたような気がします。

(後編に続く)
4月2日更新予定です。


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