160万部を突破した『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』など多くの著書がある公認会計士の山田真哉氏と、独立系投資運用会社のレオス・キャピタルワークスで最高投資責任者(CIO)を務め、伸びる会社とダメな会社の見分け方を指南したベストセラー『スリッパの法則』で知られるファンドマネジャーの藤野英人氏。独自の視点を持つ2人が、日本人の「お金」観について語ります。「日本人は、儲けることは悪だと思っているのに、お金を貯め込むことが大好き」……その理由は本文で!

※今回の記事はジセダイ(星海社)のページでも読むことができます。

 

お金を儲けるのは「悪」なのに
貯め込むことが大好きな日本人

藤野 日本人には「豊かになることは汚れることだ」「お金=悪」といった根強い価値観がありますが、一方で、実はみんなお金が大好きなんです。日本の個人金融資産は総額1400兆円と言われますが、このうち半分以上は現金と預金が占めています。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどと比べると、投資されているお金の割合が非常に低い。つまり、日本人は自分の懐にお金を貯め込むのが好きだということ。実際、「お金を貯めるのは良いことだ」と美化されていますよね。

山田真哉(やまだ・しんや) 一般財団法人芸能文化会計財団理事長・公認会計士・税理士。1976年神戸市生まれ、大阪大学文学部卒。著書に160万部突破の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)、シリーズ100万部でテレビドラマ化もされた『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫ほか)、『世界一やさしい会計の本です』(日本実業出版社)など。年間25回ほどの講演会を8年間続け、延べ4万人を動員している。
Twitterアカウント:twitter@kaikeishi1

山田 確かに、日本ではへそくりをしたりしてお金を隠し持つことが自慢になりますね。ドラマで時代劇を見ていても、「実は、ここに貯めておいたお金が30両ある。これで馬を買いなさい」というのが美談になる。お金を毛嫌いする半面、お金を隠して貯めておくことを美徳とするというのは、よく考えてみると不思議な文化です。

藤野 僕は、日本人は社会に対する信頼が薄いんだと思っています。企業に対しても、仕事上のお客様に対してもリスペクトする気持ちがなくて、「会社も客もお金をくれるから我慢しているけれど、うるさいことばかり言う」「日々を耐え忍び、頑張って生きている対価としてお金をもらっている」「お金を貯めて自衛しなくてはならない」「自分は被害者でかわいそうな存在」といった考えがはびこっているように感じるんです。

山田 お金が大好きだけれど、社会を信用してないから投資はしない。我慢して頑張って貯め込むから、へそくりは尊い、ということになるわけですね。

藤野 日本の金融教育の問題は根が深いと思います。それは、根本に「勤労嫌い」があるからです。働くことが楽しそうに見えないし、働いている人が素敵に思えないから、会社が素敵だと感じない。

 私は明治大学で講義をしているので学生と接する機会が多いんですが、彼らと話すと、社会人になることに対してネガティブなんですよ。若い人の間に、「会社勤めをするというのは、身も心も捧げて生血も与えて、引き換えにお金をもらうことだ」という勤労観が広がっていると感じます。
  彼らにとって、労働とはストレスと時間をお金に替えることであり、会社とは「儲けるためには何でもする」「人権を蹂躙することさえある」ところというイメージでしょう。

 でも仕事とは本来、クリエイティビティを発揮し、社会とコミュニケーションし、価値を提供したことへの評価としてリターンをもらうものですよね。それを実感できないと、会社が価値を創造し、それが株価につながるということに対してもポジティブになれない。「株式投資は会社を応援することだ」と説明されても、投資が良いことだと思えない人が多いのは、結局のところ、みんな会社が嫌いだからなんです。