個人投資家のミスにつけ込む取引

 しかし12章で述べたように、すべての人がきちんとインザマネーのコールを行使すれば、配当スプレッドから利益を上げることはできません。支払った手数料分の損をするだけです。
 個人投資家の方がこの戦略を実行できない理由はそこにあります。大量のオプションを執行するためには多額の手数料を支払わなければならないからです。

 マーケットメイカーもある程度の手数料を支払わなくてはならないのですが、取引所によっては上限が設定されているケースがあるので、配当スプレッドが可能となるのです。

 この配当スプレッドに関してはいくつかの批判があります。

 1)通常、コールを行使し忘れるのは個人投資家です。配当スプレッドは言わば、プロがその立場を利用して本来保護されるべき個人投資家のミスに付けこんで利益を上げる取引だと言えます。

 2)バイライトのポジション(株のロングとコールのショート)を取っている人にとっては、マーケットメイカーが配当スプレッドを実行することでコールが割り当てられる確率が高まります。
 つまり、本来は配当分の収益をあげられたかもしれないのに、マーケットメイカーが大量の配当スプレッドを実行してオープンインタレストを独占することで、その収益機会がぶんどられてしまうわけです。

 3)配当スプレッドによる大量のオプションの執行と行使による株の受け渡しは、実態を反映した取引とは言えません。あたかも大量の取引がなされたかのように投資家を誤解、混乱させる恐れがあります。