メリルリンチの失敗
さて、それでは配当スプレッドを執行しうるような立場にある人は、配当スプレッドを執行した方が良いでしょうか。
本章でも述べたように、配当スプレッド自体はデルタがヘッジされた取引ですから、ほとんどリスクはないように思えます。
しかし、実は必ずしもそうとは言えません。あらゆる取引にはさまざまな形のリスクが存在します。
世界でもっともオプションが取引されている銘柄の一つに、「SPY」というものがあります。
これはState Streetというアセットマネジメント会社が発行しているS&P500指数連動型のETFです。
あまり取引されてはいませんが、円建てのものが「1557 JP」という名前で東証でも上場されています。
2012年9月21日、メリルリンチに口座を持つあるマーケットメイカーがSPYの配当スプレッドを執行します。翌日は配当の権利落ち日でした。買ったコールをその日のうちに行使して株に換え、後はショートしたコールが割り当てられずに値下がりするのを期待して待てばよいわけです。
ところがクリアリングを行うメリルリンチは、「業務上のエラー(operational error)」によってロングしたコールを行使し損ねてしまいます。
翌日、ロングしたコールは配当分値下がりします。ショートしたコールはほとんどが割り当てられて株のショートポジションとなり、配当を支払う義務が生じます。言わばマーケットメイカー自身が配当スプレッドの餌食になった格好です。
この場合、過失は明らかにメリルリンチ側にあります。彼らはこの責任をとり、約1000万ドルの損失を負ったと言われています。