「呼吸しろ!息を吐け、吐け!こうやってやるんだ、こう!」

 真之はふうっと大きく慎太郎に向かって息を吐きました。慎太郎は見開いた目でじっと真之を見つめ、一生懸命それを真似しようとしました。わずかな息が、口から漏れ始めました。ふうーっ……、ふうーっ……と息を吐きます。

「次は吸うんだ、少しずつ、こうして!スーっ!」

 真之は今度は慎太郎に息を吸ってみせました。慎太郎はそれに続いてス、ス、と息を吸いました。

「いいぞ、そうだ慎太郎!ふうー、スー!ふうー、スー!」

「ふう……ス……、ふう……ス……」

「いいぞいいぞ、吸って! 吐いて!」

「ふう……スー……ふう……スー……」

「いいぞ慎太郎!」

 真之はボロボロと涙を流していました。慎太郎は目を見開き、父がやる呼吸の後について、呼吸を続けました。少しずつ、少しずつ、数値が上がっていきました。

「お父さん、上がってきましたよ!」

 看護師さんが叫びました。

「ふうー、スー!ふうー、スー!」

「ふう……スー……、ふう……スー……」

「ふうー、スー!ふうー、スー!」

「ふうー、スー、ふうー、スー……」

 やがて二人の呼吸は重なって、一緒に力強く呼吸を繰り返しました。数字は60……70……80と上がっていき、そしてついに90を超えました。

「正常値です、峠を越えましたね!」

 ドクターが笑顔になりました。私は力が抜けて、その場にへたりこんでしまいました。慎太郎はなおも真之と一緒に呼吸を繰り返しています。

「凄いぞ慎太郎、よくやった!よくやった 」

 真之は頬を涙でぐちゃぐちゃにしながら笑いました。父親に褒められて、慎太郎の顔は心なしか誇らしげに見えました。

見えないが聞こえる横田に
球団も選手も寄り添い続けた

 1度目の危篤は乗り切ったものの、慎太郎の体力は極度に落ちてしまいました。これまでは部屋の中では歩き回れたのに、ベッドに起き上がるのがやっとの状態になってしまったのです。