「Temu」が世界的に
成功している理由とは

 現在、Temuのような激安ECサイトが増えている理由はどこにあるのか。

「今では、日本企業やアメリカ企業の多くが、中国で製品を作っていますよね。それを中国企業が自国で商品を製造し、国外向けにビジネスを展開したという形になっています。自国で製造すれば当然サプライヤーも見つけやすく、国外展開しても他国のEC企業より安く商品を提供することができます。日本に限らず、最近の若者がチェックしているトレンドの情報源は、インスタやTikTokなどが中心。国際的な情報格差が小さくなってきたことから、国境を超えてECビジネスを展開しやすくなったのだと思います」

 世界各国には、それぞれECの強豪企業が存在する。日本であれば楽天市場、中国ではアリババ、アメリカではイーベイなどが代表格だ。世界的には中国系ECサイトとしてSHEINが先行している中で、彗星(すいせい)のごとく現れたTemuが爆速で成長している背景には、SHEINとの徹底した差別化にある。

 SHEINは美容系商品やアパレルに強く、例えるなら「GU」。価格の安さだけでなく、トレンドに敏感な女性ユーザーを満足させる商品を取り揃えている。一方のTemuは生活雑貨や家電など商品ラインナップも幅広く、まるでホームセンターのよう。例えるなら「ドン・キホーテ」で、幅広い年齢層の男女がターゲットとなりそうだ。

 さらに、Temuについて特筆すべき点は、買い物しているときの「ワクワク感」がアプリ上でうまく演出されているところだ。例えば、商品の売れ行き状況が「まもなく売り切れ」「残り○点」などとリアルタイム表示され、思わず購買意欲が刺激される。他にも、アプリを開くたびにルーレットを回して割引券がもらえるキャンペーンもある。Temuのアプリを回遊していると、豊富でユニークな商品ラインナップや激安価格に思わず目を奪われ、ついつい掘り出し物を探したくなってしまう。まるでリアル店舗を訪れた時のようなワクワクを感じられるような仕掛けが満載なのだ。

「わたしたちが日本のECサイトで買い物するときも、商品のジャンルによってアマゾンや楽天市場などを使い分けていますよね。それと同じで、TemuもSHEINとは上手く差別化をして生き残っていく戦略なのでしょう。現在SHEINは、海外ファストファッションブランドの買収やFOREVER21との戦略提携などを通じて、マーケットプレイス化を進めています。両者ともそれぞれ特徴があるので、日本市場でも共存していくのだと思います」

 Temuの日本上陸当初は、セキュリティ面での安全性や商品のクオリティに不安を感じる声が、SNSなどで多く見受けられた。しかし実際には、想像以上に日本の消費者にも受け入れられているようだ。

 実際に日本国内でTemuを利用した人たちのレビューを見ると、「注文から数日できちんと商品が届いた」「少しチープだけどちゃんと使える」「アパレルはいいけど電化製品はお勧めしない」「返品対応も迅速」といった評価だ。

「Temuを利用しているのは、学生や貧困層などのお金がない人ばかりとは限りません。物価上昇や景気減速を背景として、日本人の消費行動が節約志向に傾いていることも、Temuが支持を得た理由の一つです。実はSHEINも、当初は日本市場への参入に積極的ではなかったそうです。しかし実際に進出してみたらSHEINが大ヒットし、意外と日本人にも安いもの好きが多いことが分かりました。日本人は商品のクオリティへのこだわりが強いという印象がありますが、そんなイメージも変わってきています」

 2022年に話題になったSHEINと比べると、日本国内におけるTemuの知名度はまだ高くないが、そこには宣伝戦略の違いがあるという。

「SHEINの場合は、実店舗のオープンやファッションショーとのコラボなど、メディア受けする話題作りが功を奏し、メディアの発信力を利用して知名度を上げました。一方、Temuにはまだ日本法人もなく、日本におけるマーケティングにあまり積極的ではありません。サービスをローンチしてからの1年間で日本以外にも40カ国余りに進出しているので、日本だけにリソースを割くことはできないのだと思います」