カインズ、ワークマン、ハンズなど30社を束ねるベイシアグループ。2020年にはグループ売上高1兆円を突破。22年7月には、日本IBM出身の樋口正也さんをトップに、グループ横断のDXカンパニー「ベイシアグループソリューションズ」を設立し、生成AIの活用、AIを駆使した需要予測、SNSやECサイトの口コミを生かした商品開発など、熟練者やヒットメーカーに頼らない持続可能な成長を目指している。そこに国内トップランナーとしての余裕はない。樋口さんが抱く危機感の正体とは。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
差別化のためには自社開発のPB商品が必須
口コミ分析でヒット商品を開発する
小売にとって自社開発のプライベートブランド(PB)は差別化の源泉だ。ベイシアグループも例外ではない。ワークマンはすでに6割、カインズやベイシアも3割とPB比率を高め、独自色を打ち出している。
問題は、従来のような、ひざを突き合わせて案をひねり出す企画会議では、ヒットを飛ばし続けるにも限界があることだ。また、どんなに自社商品のデータを分析しても、見えてこないものがあった。他社の爆売れ商品、SNSで人気のアイテムなど、自社では扱っていない商品にこそ、次なるヒット商品のヒントが紛れ込んでいるのだ。
「2021年に発売されたワークマンの『AERO GUARDステルスジャケット』は、防虫加工されたメッシュ生地で顔全体を覆える。“着る網戸”だと話題になって大ヒットしました。あのような斬新な商品、普通は思い付きませんよね。ワークマンは、アンバサダーマーケティングに力を入れていて、アンバサダーの声や似た商品から着想を得ていますが、こうした独創的なアイデアを仕組み化して再現性あるものにしたのが、SNSなどをクローリングしてニーズやトレンドを商品開発に生かす、ベイシアグループ独自の口コミ分析です」
ワークマンでは、以前からYouTubeに上がったレビュー動画や視聴者のコメントを最重要視してきた。仮にワークマンに関する新着動画が1日20本アップされるとして、1本10分なら毎日200分かけて見る計算になる。だが、口コミ分析によって、動画を全て見なくても効率的に要旨を把握できるようになったという。