中小企業のうち後継者が決まっている企業は10.5%、廃業予定の企業は57.4%(日本政策金融公庫2023年調査)。後継者難の時代にあって、異業種承継を成し遂げ、既存事業の成長にもつなげている企業がある。1945年創業の老舗建設会社、東京都小金井市の金澤建設だ。(取材・文/大沢玲子)
承継したのは同じ小金井市の洋菓子店。「特にふわっとした生地にカスタードクリームを詰めた『カスタードパフ』は土産物としても好評で、後継者不在で閉店すると聞き、この味を絶やしたくないと考えたのがきっかけでした」。同社代表取締役社長の金澤貴史氏は語る。
後継者を探すも見つからない。ならば、「自分たちで受け継ごう」と決意。そのチームリーダーに据えたのが、企画デザインやセールスプロモーションを手がける会社を経営する妻の金澤大恵氏(現・同社常務取締役)。2社でタッグを組んだ事業承継プロジェクトがスタートする。
製造工程を見える化し
職人が生んだ味を再現
「正直言うと、お菓子作りが得意でも好きでもなかったんです」と明かす大恵氏。店主の下、半年間修業を積み、材料の分量や工程の聞き取り、動画撮影などを行い、詳細なレシピを作成する。また、衛生管理やサービスの均一化を図るためのマニュアルをまとめるなど、すべてのオペレーションの見える化を実現。熟練の職人がいなくても、安全を担保しながら味を再現できる仕組みを構築した。
こうして伝統の味に改良を加えたふわふわ生地に卵黄たっぷりの自家製カスタードクリームが詰まった「黄金井パフ」が完成。15年3月、「菓子工房ビルドルセ」をオープンさせる。翌年には、新しい事業承継のビジネスモデルが評価され、多摩信用金庫が主催する「多摩ブルー・グリーン賞」で「経営部門(多摩グリーン賞)」の最優秀賞を受賞した。
同社が畑違いの異業種を成長させ、さらなる進化を実現している背景に、時代の変化を捉えた新しい試みが挙げられる。