2025年12月に16歳未満のSNS利用を禁止する法律を世界ではじめて施行したオーストラリアに続いて、フランスでは26年1月、15歳未満のSNS利用を禁止する法案が国民議会(下院)を通過し、9月にも施行される見通しになった。イギリス、デンマーク、オーストリア、スペインなども同様の法案を検討しはじめたという。

 欧米を中心に広がる「SNS規制」の潮流に大きな影響を与えたのが、社会心理学者ジョナサン・ハイトの『不安の世代 スマホ・SNSが子どもと若者の心を蝕む理由』(西川由紀子訳/草思社)だ。

 原題は“The Anxious Generation; How the Great Rewirting of Childhood is Causing an Epidemic of Mental Illness(不安の世代 「子ども時代の大いなる組み替え」が、いかにして精神疾患のエピデミック〈大流行〉を引き起こしたか)”で、SNSこそが子ども(とりわけ女子)のうつ病や自殺の急増の原因だとして、法による利用制限を求めている。ここでは、ハイトの主張にどこまで妥当性があるかを考えてみたい。

欧米を中心に広がる「SNS規制」。「SNSこそが子どものうつ病や自殺の急増の原因だ」という主張は正しいのか?Photo/beauty-box / PIXTA(ピクスタ)

アメリカの大学生のおよそ半数(45%)が不安とうつにさいなまれていることに

 1995年以降に生まれた若者たちが「Z世代」で、スマホやSNSとともに成長してきたことからiGen(アイジェン)とも呼ばれる。「インターネット世代(internet Generation)」の略だ。

 ハイトは2018年の『傷つきやすいアメリカの大学生たち 大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体』(グレッグ・ルキアノフとの共著/西川由紀子訳/草思社)で、2010年代以降の大学で目立つようになった「甘やかされた」若者たちの実態を報告して大きな反響を呼んだ。いまの大学生は、自分が傷ついたり、他者を傷つけることを過剰に恐れるだけでなく、それが異様なキャンセルカルチャーの土壌になっているというのだ。

【参考記事】
●アメリカの大学では、社会正義を掲げる学生たちによる過激なキャンセルが常態化し、社会に深刻な害悪を与えている

 その続編にあたる『不安の世代』では、「遊び中心の子ども時代」から「スマートフォン中心の子ども時代」へと、「子ども時代の大いなる組み替え(the great rewriting of childhood)」が起きており、若者たちは人類史的にも進化論的にも奇妙なこの環境に適応できず、苦しんでいるとされる。

 ハイトがあげる欧米の「10代の苦悩」は、たしかに深刻だ。

 アメリカの10代のうつ病(MDD: Major Depressive Disorder)の罹患率(自己申告)は、2010年を基準にして男女ともおよそ2.5倍に増えた。その結果、いまでは(驚くべきことに)10代の女子のおよそ3人に1人(約30%)がうつ病の診断基準を満たす抑うつ経験をしており、男子は女子より低いものの、10人に1人以上(約12%)がこの基準を満たしている。

 自己申告ではなく、専門医の診断でもこうした傾向ははっきり表われている。精神疾患のあるアメリカの大学生の割合は不安症とうつ病でとくに高く、大学生の4人に1人(25%)が不安症、5人に1人(20%)がうつ病と診断され、いずれも2010年から10年あまりで2倍以上になっている。診断としての不安症とうつ病は重複しないだろうから(強い不安を長期にわたって経験するとうつ病と診断される)、アメリカの大学生のおよそ半数(45%)が不安とうつにさいなまれていることになる。まさに「不安の世代(The Anxious Generation)」だ。

 もちろん、こうした主張には異論がある。自己申告で抑うつ経験が増えたのは、精神疾患についての社会の見方の変化や、友人たちの影響かもしれない。精神科医による診断も本人へのインタビューに基づいているから、これまでなら軽度の不安症状とされるものを“病気(うつ病)”と診断している可能性がある。

 この批判に対してハイトは、青年期前半の自傷経験率と自殺者数が、やはり2010年を機に大幅に増えていると反論する。

 アメリカの青年期前半(10~14歳)の女子が自傷行為で緊急治療室に運び込まれた割合は、2010年の10万人あたり150人から2020年の450人へとおよそ3倍に増え、青年期後半(15~19歳)でも2倍に増えているが、(Z世代の前のミレニアム世代に属する)24歳以上の女子では逆に減少しているのだ。

 さらに1980年以降、10万人あたり1人弱の狭い範囲で推移してきた青年期前半の女子の自殺率が、2012年から急増し、21年までに2.7倍というこれまでにない水準に達した(男子の自殺率も2010年以降に急増し、21年までに1.9倍に増えた)。

 若者たちのあいだに、自己申告(本人の経験)だけでなく、実際の行動にも大きな変化が起きているのだ。