価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

【アイデアを生みだす技術】言葉は、最速で最安のプロトタイピングツールPhoto: Adobe Stock

いま、どんなアイデアを必要としていますか?

 あなたが、本連載を読もうと思ってくださった理由は何でしょうか?

 会社の仕事でもっとアイデアを出せるようになりたいと考えたから? それとも、地域活性化などの活動で何らかのヒントを得たいと感じたからでしょうか。

 たしかに、ビジネスや社会活動において「アイデアが必要」というシーンや状況は、多々あります。

 ・小売の現場で販売促進のプランを考えないといけない
 ・顧客満足度をアップさせる方法を考えてと言われた
 ・若い世代に刺さる新商品のアイデアを求められた
 ・収益性の高い新規ビジネスを考えないといけない
 ・頭の固い上司に「いいねぇ」と言わせる方法をひねり出したい
 ・周囲の協力が得られそうな研究テーマを考えたい
 ・部下のモチベーションを上げる方法はないか

 このように並べてみると、どれも根本は共通しているように見えます。それは、「ある問題が存在していて、その解決法を考えたい」ということです。

アイデアとは、
何らかの問題解決に役立つもののこと

 いくらユニークな発想であっても、それが、何かしらの問題解決に対して機能していなければ、それをアイデアと呼ぶことはできません。

 この連載では、主に「ビジネスの現場で役立つアイデアの技術」について書いています。

 どんなビジネスにおいても、個人でアイデアをつくる技術だけではなく、チームとしてアイデアを強くしていく技術が必要です。

 そのため、連載の前半では、個人のアイデア発想の技術について、後半では、チームでアイデアをつくり、強化し、実行していく技術について書いていこうと思います。

コピーライターの2つの役割

 私は、コピーライターという肩書で仕事をしていますが、コピーライターには大きく2つの役割があると思っています。

 ひとつが、皆さんが広告などで目にするキャッチコピーを書くという役割。もうひとつが、ビジネスやプロジェクトのスタート時に、アイデアやコンセプトを言葉でつくり出すという役割です。

 リレーに例えると、プロジェクトにおいて最後に価値を伝えるアンカーとしての役割と、プロジェクトのはじまりにおける第一走者の役割です。

 私はどちらかというと、これまで第一走者の役割に重きを置いて、コピーライターの仕事を行ってきました。その理由は、「言葉のプロとして事業やプロジェクトのスタートに関わることにより、ビジネスの成否により大きく関与できる」と思ったからです。

 私は常々「言葉は、最速で最安のプロトタイピングツールである」という持論を唱えています。

 プロトタイピングとは、システム開発などにおいて使われている概念です。本格的な開発に入る前にプロトタイプ(試作品)をつくり、ユーザーテストの結果を得ながら仮説のアイデアの精度を高めていくものです。

 そんなプロトタイピングモデルの考えと同じように、ビジネスにおける問題解決についても、実施前にプロトタイプをつくり、アイデアの検証や改善を行うことができたらと思い、言葉でアイデアをつくり、検証していくことを続けてきました。

 本連載では、その経験に基づき、どうアイデアを発想するか、だけではなく、アイデアを検証したり、再構築するための方法にまで言及していきます。

「言葉」は誰しもが、無料で使えるものです。だからこそ、言葉でアイデアを形にしたり、よりアイデアを強いものに改良していく開発の手順を自分やチームの中で導入することができれば、早く、コストも安く、問題解決に役立つアイデアをつくっていけるはずです。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター

1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。