アイデアからビジネスの意味を見つけ出す言葉の使い方

「言葉を粗雑に扱ってもよい」と主張する人はほとんどいないでしょう。しかしながら、私たちはたびたび、「言葉」が不適切に扱われる場面に遭遇します。これは、言葉への感度の問題だけでなく、感情が高ぶることで言葉が荒れることもあるからです。誰であっても、言葉を乱暴に扱ってしまう可能性があるのが現実です。しかし、ロベルト・ベルガンティが提唱する「意味のイノベーション」において、この可能性を認めてしまうと致命的なことになります。今回は意味のイノベーションを実現するための、言葉との向き合い方について考えます。

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アイデアに対するオーナーシップは言葉から生まれる

「意味のイノベーション」は方向を変えるイノベーションです。これをイタリア語で表現するとふに落ちます。イタリア語で方向は「senso(センソ)」となり、例えば、一方通行は「senso unico (センソ・ウニコ)」と表現します。実は、意味も方向と同じ「senso」なのです。つまり、意味を変えるとは方向を変えることだとイメージできるはずです。しかも、「senso」には感覚という意味もあります。感覚的に向かうべき方向がつかめるところに意味がある、といえないこともない。これが指し示すのは、個人的な感覚に基づいたところが意味付けの出発点になる、ということです。

 本連載で何度も繰り返し述べてきましたが、意味のイノベーションは1人の思考が起点であり、それが人の思いや考えの固有性を尊重することにつながります。その結果、自分の考えたことにオーナーシップを持つことができ、それがリーダーシップにつながるわけです。もう少し解説を加えると、一般的な視点による「もの言い」からは決してスタートしないことを意味します。「世の多くの人はこう言っているから」とか、「平均的な日本の人の考えでは」との言葉から、自分自身が進みたい方向は見えてこないのです。仮にそう思えても確信には至りにくい。このような熱の入らない言葉で、「あっちの方向に行かないか」と他人を誘えるようなイノベーションは導き出せるでしょうか。

 普遍性とはコンテクストから離れた抽象度の高い位置にあります。しかし、ここを拠点とはできないのです。「そこにしかない事象」を徹底して感じるところから意味のイノベーションは始まります。企業が掲げるパーパス(存在理由)に「人類の幸せに貢献する」との表現を見掛けます。現在、地政学上の紛争を見聞するにつけ、このような表現の持つ重みに実感が増しているのは確かです。ただ、多数が関与する集団でパーパスやミッションを語るとき、できるだけ適用範囲の広い言葉を選んで「包み込もう」とする態度が透けて見えることが多いのが気になります。この類いとまったく正反対にあるのが、意味のイノベーションの出発点なのです。