先日まで放映されていたドラマをきっかけに、昭和時代のコミュニケーションが注目されています。一定以上の年齢の方は「あるある!」と懐かしく感じるものが多かったと思いますが、令和の若者の中には「こんなにひどいコミュニケーションだったの?」と驚いた人もいたようです。
ドラマの中でも似たようなシーンがありましたが、上司からの何気ないひと言が、パワハラと受け取られるケースは少なくありません。「部下に早く成長してほしい」との期待を込めた言葉でも、部下には思いが伝わらず、威圧感を与えてしまう…こういうもったいないコミュニケーションがあちこちで起こっています。
昭和時代と令和時代では、当然ながら効果的な伝え方のポイントも変化しています。シリーズ世界累計259万部突破のベストセラー『伝え方が9割』の著者、佐々木圭一さんに、不適切にならない上司から部下への「伝え方」を教えてもらいました。(構成/伊藤理子)
■Case1「山田さん暇? 仕事、手伝ってくれない?」
誰かに仕事を手伝ってほしいとき、悪気なくこういう聞き方をしてしまう人は令和の世でも決して少なくありません。でも、今の時代では不適切な伝え方です。
本人は相手をディスっているつもりは毛頭なくて、「時間ある?」というニュアンスで「暇?」と聞いてしまっているのでしょうが、言われたほうはムカッとするもの。たとえ暇であっても「暇じゃない!」と言いたくもなりますよね。このような昭和的な伝え方は、働く現場ではまだまだ多く飛び交っていて、多くのトラブルを生んでいるようです。
こういうときに、お勧めしたい伝え方はこれです。
◎「山田さんと仕事をすると、いつもいい仕事になるんだよね。この企画もぜひ一緒にお願いできないかな?」
「いつもいい仕事になる」というのは、伝え方の技術「認められたい欲」を使った伝え方です。人は認められると相手の期待に応えたくなるので、たとえ忙しくても「やってみよう」と思ってもらいやすくなります。
そしてもう1つ、「一緒に」というのは「チームワーク化」という伝え方の技術です。人は「一緒に〇〇しよう」と言われると嬉しさを覚え、誘いに乗ってみてもいいかなと思いやすくなります。
例えば同僚に「一緒にコーヒー買いに行かない?」と誘われると、特に飲みたくもないのに買いに行こうかなと思えますよね。このように「一緒に」という言葉には人を巻き込む力があるのです。
先の「暇なら手伝ってくれない?」という伝え方も、伝え方の技術を2つ使ったこの伝え方も、目的は同じです。しかし、前者は「この人の仕事は手伝いたくないな」と敬遠されやすい一方で、後者ならば自ら進んで「やりたいな」と思ってもらうことができます。相手の感情を想像し、より「嬉しい」と思ってもらえる伝え方を考えるのがポイントです。
■Case2「これ急ぎだから、やっておいて」
え? これくらいで不適切なの? と思われるかもしれませんが、令和の時代には注意ワードです。新年度はどの企業も慌ただしいもの。新しい人が入ってきたり、新たな仕事がスタートしたりと、てんやわんやの部署も多いかと思います。
そんな中、手が空いていそうな部下を見つけたら、上司としては「これ急ぎだからやっておいて」とお願いしたくもなるでしょう。仕事はたくさんあるし、皆が協力し合うのは当たり前だと昭和世代の上司は考えるでしょうが、令和の若者からすると「何で自分が?」と感じてしまう可能性があります。上司の目から見ればヒマそうでも、実は多くの仕事を抱えているという場合はなおさら、「いま忙しいのになんであえて自分に? …これってパワハラじゃないの?」などと思われてしまうかもしれません。
では、何と言えばいいのか。お勧めの伝え方はこれです。
◎「この短期間で求められるクオリティを出せるのは、佐藤さんしかいないんだ。お願いできないかな?」
これは「認められたい欲」「あなた限定」という2つの技術を使った伝え方です。人は期待されると、その期待に応えたくなるという心理が働きます。「短期間で求められるクオリティを出せる人だ」と認められたことで、部下は「短期間しかないし大変そうだけれど、頑張ってやってみようかな」と思えるようになるでしょう。
そして、人は「あなただけ」と限定されると嬉しくなり、多少面倒くさいことでも前向きに受け入れようとします。「佐藤さんしかいない」と特別扱いすることで、「自分しかいないならばやってみよう」と気持ちよく業務を引き受けてくれるでしょう。
コミュニケーションを円滑にするうえで一番大切なのは、「相手の状況や感情を想像して伝える」こと。「急ぎだからやっておいて」という伝え方が必ずしも悪いわけではありませんが、部下がもしたくさんの仕事を抱えていたら、「こんなときに…昭和かよ!」と思われても仕方ありません。部下の状況を想像して「いまは忙しいかもしれない」と感じたら、上記のような技術を使って伝えてみてください。