ハイエンドな世界観で売ってはいるが、ずっとそれを貫き通すわけではなく、相手に応じて臨機応変に変えていく。

 例えば外食は高級店ばかりだという富裕層の客を日本の中華チェーンの「日高屋」に連れて行ったり、綺麗に整った服装ばかりではなく、ときにはドラえもんのTシャツを着ることもある。

「長いお客からは、『マリエは他と違う』と言われます。最初はブランディングも兼ねてかなりハイエンドなイメージから入るため、それを良いギャップと捉えてくれる人がお客として残ってくれる。同業者には、『客からお金をどう引っ張るか』『どう作為的に惚れさせるか』みたいな考えの人が結構いますが、私は相手と仲良くなってくると、お金のことがどうでも良くなってきたりするし、必要以上にもらおうとも思わない。遊び慣れている人ほど、それが新鮮に映ったり、『マリエって優しくていい子だね』となったりする。それに、優しくない態度をされた時には相手に対して『不愉快だ』と普通に怒るので、怒られる経験が新鮮で喜ぶ客もいます。長いお客さんは、そういう私の素の部分も含めて好きと言ってくれます」

書影『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版、朝日新書)『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版、朝日新書)
松岡かすみ 著

 例えば、ここ4年ほど毎年仕事を受けている、アメリカの高級住宅街の豪邸に1人で暮らすおじいさん。コロナ禍で、「アメリカの自宅で、半年ほど一緒に住んでほしい」という依頼から始まった関係だ。

 同居することでの報酬は、ひと月1万ドル(約145万円)。それから客が毎年、日本に旅行に訪れて一緒に過ごし、2年前には1週間の国内旅行に付き合う仕事で1万ドルの報酬を得た。昨年は再びアメリカに飛び、自宅を訪問した。

「彼と会う時と別れる時は、ちょっとうるっとしてしまいます。孤独なおじいちゃんで、私が一生懸命話を聞いたり、一緒にリラックスして過ごすのが嬉しいみたい。アメリカという資本主義かつ金銭至上主義の国で生きているからか、『お金第一な人』があまり好きじゃないようで、そうした理由もあって、リピートしてくれているみたいです」