近年増加している外国への出稼ぎ日本人風俗嬢。就労ビザなしで入国する彼女らは、あの手この手で審査をかいくぐっている。彼女らの手法と仕事内容とは。※本稿は、『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版、朝日新書)の一部を抜粋・編集したものです。
スマホから仕事関連のデータを全消去
客をボーイフレンドと偽り入国
言わずもがな、海外で働くには就労ビザが必要となる。だがマリエさんのように性風俗業で出稼ぎをする場合、現地で働くことを伏せたうえで観光ビザなどで入国し、現地で短期間働いて帰国するか、別の国に移動するのが主だ。
マリエさんは自分の仕事をセラピストやカウンセラー、コーチング講師などと名乗り、入国審査を受けている。それでも単身で何度も出入国を繰り返していると、怪しまれることが増えてきた。実際に、入国審査を経て税関を通った後に警察官が追いかけてきて、入国の目的や滞在期間、滞在先などを細かく聞かれたこともある。
こうして疑いの目を向けられると、所持品のみならず、SNSやスマホの写真なども確認されることになるため、出国前にはスマホから仕事関連で使用しているアプリや写真を全て消し、クラウド上に移したり、仕事用のアカウントを削除したりするなどして、スマホを見られても大丈夫なように徹底している。セラピストやカウンセラーと名乗る時に提示するための、SNSのアカウントも用意しているというから周到だ。
「入国審査については、同じように各国に出稼ぎして働いている同業者同士で、『この国のこの空港で、こういうことがあったから気をつけて』という情報交換を活発にしながら、なんとか網をかいくぐっています。海外で仕事をしていると、日本は貧しい国になってきていることを実感しますが、最近はもはや『不法就労をする可能性がある貧困国』として認識されてきているのが明らか。私のように仕事用のSNSアカウントで発信する日本人も出てきているので、動きが可視化されている面もある。これ以上取り締まりが厳しくならないことを祈りますが……」
直近でアメリカへ入国した際には、怪しまれないための対策として、まずシンガポールに飛び、シンガポールからアメリカ人の客と一緒に、席はビジネスクラスのみという特別フライトに乗って、アメリカ東海岸の空港に飛んだ。
一旦シンガポールを経由していることと、ビジネスクラスの客ということで疑いのハードルが下がるのに加え、客を「ボーイフレンド」と説明。入国審査は特に問題なくクリアしたという。
入国審査さえクリアしたらOK
性的サービスの講師で261万円稼ぐ
しかし自己責任とは言え、いつ摘発されてもおかしくない危険と隣り合わせという状況だ。「不法就労で捕まるかもしれない危険を考えると怖くないか」と問うと、「うーん。そればっかりは運の問題ですよね」と、どこか割り切った答えが返ってきた。