英王室との関係に
不安を示した上皇ご夫妻

 ただ、公式の序列とは別に、尊敬を集めるとか、丁重に扱われるという意味では、日本の天皇と英国の国王の重さは格別だ。

 日本の天皇は、世界最長の歴史を誇り、しかも、大国の君主である。米国のオバマ大統領が訪日した折も2000年以上の歴史と言っていたが、神武創業以来かどうかはともかく、4世紀ごろに統一国家が成立してからの万世一系は、だいたい史実であろうと国際的にも認知されている。

 欧州の王室では、デンマークとかスペインはその複雑な歴史をどう解釈するか難しいが、英王室は1066年にフランスのノルマンディー公ウィリアムがイングランドを征服して以来、女系も介するが同一家系による継承が行われてきた。

 日本はそれよりはるかに長いし、男系男子という難しい条件をクリアしているので、なおさらに“値打ち”がある。

 また、人口では、日本の1億2600万人に対して英国は6700万人、GDP(国内総生産)も日本の方が大きい。

 一方、英国王は15カ国の君主を兼ねている。さらに、道徳的な水準や、儀式の荘厳さなども君主の地位を高める。日本の皇室は簡素で清貧だと尊敬はされているものの、英国国王の宮殿や衣装や儀式の豪華さは、やはり外交的な力だ。

 いずれにせよ、世界のロイヤルファミリーの双璧ともいえる日本と英国の皇室・王室の君主同士が意見交換し、悩みをぶつけ合うことは有益だと思う。

 実際、昭和天皇は皇太子として訪英された時にジョージ5世から君主としての心得をたたき込まれたし、エリザベス女王は訪日された時、昭和天皇から懇切な助言を受けて、「このために地球を半周して来た」と喜ばれたと記録にもある。

 3月16日に公開された英国政府の外交文書で、上皇ご夫妻が1998年、天皇、皇后に即位後初の英国訪問に際し、英王室との関係に不安を示されていたことが判明し、話題となった。機密解除された資料では「エリザベス女王(当時)夫妻との緊密な関係が欠けているとの(現上皇ご夫妻の)不安を高めることになった」と指摘され、親密度を不安に思っておられたことが明らかになった。

 上皇ご夫妻が当時、英王室との関係を冷静に状況判断し、苦心され、率直に悩みを打ち明けておられたことに感銘した。これからの英王室との交流においても、表面的な関係より進んで、より突っ込んだ意見交換のできる関係を目指すべきだと思う。

(評論家 八幡和郎)