5月頭に行われた、英国王・チャールズ3世の戴冠式。この式典には古くから「他国の国王などは参列せず、代理人を派遣する」という慣例があった。だが今回は、その伝統が破られ、他国の国家元首や王族が招待された。一方、数多くの君主が参列する中、日本の天皇陛下は欠席し、秋篠宮ご夫妻を派遣した。この天皇陛下の選択について批判の声もあるが、筆者は“正解”だと考えている。英国が長年の伝統を覆した理由と併せて、そういえる要因を解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
代理人ではなく「国王・君主」が
参列した異例の戴冠式
5月6日、英国王チャールズ3世の「戴冠式」が執り行われた。
戴冠式には「他国の国王などは参列せず、代理人である名代(みょうだい)を派遣する」という古くからの慣例がある。
君主の格は在位年数で決まる。他国の君主は新国王よりも格上だ。そのため、君主は名代を派遣するようになった。故・エリザベス2世の戴冠式では、昭和天皇の名代として、皇太子時代の現上皇が参列した。
だがチャールズ国王は、900年近く続いてきた慣例を変えた。長きにわたった皇太子時代から親交があり、気心の知れている各国の国王たちを招待したいという意向を示したのだ。
そのため戴冠式には、王室メンバーや英国国教会の代表者に加え、外国の国家元首や王族などを含めて、合計でおよそ2200人が招待された。
具体的には、モナコのアルベール2世大公、ヨルダンのアブドラ2世国王、ベルギーのフィリップ国王、スペインのフェリペ2世国王、オランダのウィレムアレクサンダー国王など、多くの君主や国家元首がチャールズ国王の「お気持ち」に応えた。
さらに、「英連邦」(コモンウェルス)加盟国のうち、23カ国の大統領などが参列したという。
このうち他国の君主や国家元首たちは、在位年数ではチャールズ国王よりも「格上」に当たる。
だが、あえて皮肉な言い方をすれば、彼らは今回、過去の戴冠式で「格下」の名代が座っていた座席を割り当てられたわけだ。
前述した「チャールズ国王との友情」によって出席した君主・国家元首たちは、そうした座席に座っても、もちろん不愉快には感じなかっただろう。ただし、それ以外の招待客にとっては「格下扱い」が不本意だった可能性もある。
にもかかわらず、多くの君主・国家元首が出席したのはなぜか。