不知火は地域性の強い
「横方向に伸びる蜃気楼」現象

 蜃気楼には実像が上方向に伸びるものや反転して下に映るものがありますが、不知火は、科学的に未解明の現象ではあるものの、横方向に伸びる蜃気楼なのではないかと考えられています。干潟には、温かい海水がたまった潮だまりがあり、その上の気温は高くなりますが、その周りは夜の冷たい空気があるため、干潟上の空気に温度差ができるのです。このため、漁火(いさりび=魚をとるため舟でたく火)が横方向に伸びる様に見えて、あるはずのない無数の漁火が見えると推測されているのです。また、不知火の発生には、大潮の晩に広大な干潟が現れることが重要とされていて、有明海や不知火海は潮位変化がとても大きく、この条件に当てはまります。

 このため、不知火は、干潟の海水温が非常に高くなる夏の終わりから秋のはじめに見られることが多い現象です。中でも八朔は、祭事があったり、干潟で魚や貝などを獲ったりする時季だったために、特に人目に付きやすい日でした。

 ただ、昭和初期にはすでに見られにくくなっていたそうです。江戸時代から進んできた干拓による干潟の減少や八朔の時期は禁漁になり漁火を見ることがなくなっていることが原因と考えられています。

 加えて、地域性が強い現象のため、気象予報士でも知っている人はあまりいません。海外では蜃気楼現象は多様なものが知られていますが、不知火のような横方向にも光が伸びる蜃気楼は確認されておらず、世界的に見ても非常に珍しいものです。ここ40年ほど研究もされていませんが、熊本県にある高校が調べを進めています。その高校でアンケートを取ったところ、200人中40人ほどが知っており、地元ではまだ認識されている現象と言えます。

 そこで、私は『鬼滅の刃』の作者の吾峠呼世晴さんは、福岡や佐賀、熊本にゆかりのある方ではないかと推理したのですが、実際に福岡県出身だそうです。妙に納得したのを覚えています。とはいえ、『鬼滅の刃』を読む限り、吾峠さんは、幅広い知識をお持ちの方なので、お調べになっただけかもしれませんが……。

 ともあれ、マンガやアニメーションには、作者の出身地や住んだことのある地域の天気の特性が出ることがしばしばあります。