「凍傷になるからピアスを外す」は
極寒の地ならではの細かい表現
その中で、特に面白かったのは、『鋼の錬金術師』の一場面。そもそも『鋼の錬金術師』は、気象的なスパイスがかなり効いている作品です。主人公の手足の一部が金属でできているため、暑さ・寒さに弱いなどの描写がある他、皆既日食が重要な意味を持っています(第26巻)。また、めったに弱さを見せないキャラクターが、泣いていることを周囲に悟られないように「雨が降ってきたな」と自身の涙を雨だと言い張る、ぐっと胸にくる名シーンもあります(第4巻)。
その中で、最も天気的にマニアックなのが「凍傷になるからピアスを外す」という描写(第18巻)。非常に寒い所では長時間、金属製のピアスを付けると冷えて凍傷になるおそれがあり、スキーなどの際にも注意が必要なのです。ただ、普段からこういう注意をする、しかもこんな細かい描写がさらりと出てくるとなると、作者の方は、根っからのスキーヤー、もしくは北海道出身の方ではないかと推測しました。作者の荒川弘さんの出身地を調べてみると、北海道の幕別町のご出身ではありませんか。ニヤリ。一番近い観測地点の帯広では、1月、2月の最低気温の平年値が氷点下12度から13度で、普段からピアスによる凍傷に気を付けなければならない地域なのです。
長谷部 愛 著
また、夏の効果音として、蝉の鳴き声を「ミンミン」と書いてあれば、関東南部などが舞台か、作者が関東南部出身者、アブラゼミの「ジ、ジ、ジ」やクマゼミの「シェイ、シェイ」「シャア、シャア」と書いてあれば関東北部や西日本の出身者の可能性が高かったりするのです。これも関東など、昔は夏の気温がやや抑えめだった地域はミンミンゼミが多く、西日本など暑さが厳しい地域ではアブラゼミが多かったことによるもの。都市化などで関東の気温は高くなりましたが、蝉の生息地は今でも同様のため、こうした傾向があると言います。ちなみに、海外では夏に蝉が鳴くというイメージは一般的ではないものの、洋画の森のシーンで夏の暑さの表現としてセミのような虫の音をつけていることがあるそうです。
まだまだ披露したいネタがたくさんあるのですが、身近な天気をつぶさに見つめ、知れば知るほど、ちょっとした表現に厚みや説得力が出るということがあるのだと、様々な作品から感じます。