『鬼滅の刃』で鬼舞辻無惨が「青い彼岸花」を見つけられない科学的な理由写真はイメージです Photo:PIXTA

今や、世界的に人気の『鬼滅の刃』。キーアイテムは、鬼のボスである鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)が探し求める「青い彼岸花」。自然界では、青色の花は17%と多くありません。青い彼岸花は本当に存在しないのでしょうか?

※本稿は、茜灯里『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(集英社インターナショナル)の一部を抜粋・編集したものです。

『鬼滅の刃』のキーアイテム

 邦画の興行収入歴代1位(2024年1月現在、404.3億円)は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(原作:吾峠呼世晴、2020年10月公開)です。全世界でも5億700万ドルを記録し、20年の年間興行収入世界第1位になりました。一時の“鬼滅ブーム”は落ち着きましたが、23年4月にはTVアニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』が始まるなど、人気は定着したようです。

『鬼滅の刃』には、キーアイテムがあります。主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が所属する「鬼殺隊」の最大の敵である鬼のボス・鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)が探し求める「青い彼岸花」です。

 人間だった頃、無惨は病弱で、主治医に青い彼岸花が原料の薬を投与されました。効き目がないことに怒った無惨は医者を殺しますが、その後すぐに薬の効果――鬼になる――が現れます。鬼になった無惨は強靱な肉体を手に入れますが、人を喰らうようになり、日光の下にも出られなくなってしまいます。

 無惨は、太陽の光を克服し完璧な生物になる鍵は青い彼岸花だと考え、日本中を探し回ります。けれど、平安時代に生まれた無惨は、『鬼滅の刃』の舞台となる大正時代になっても見つけることはできませんでした。手下の鬼たちをこき使って大捜索したにもかかわらずです。

彼岸花という名の由来

 無惨が青い彼岸花探しに苦労するエピソードは、科学的に非常に納得できる設定です。彼岸花は、秋の彼岸の頃に赤い花を咲かせる多年草です。弥生時代に中国大陸から日本に渡来したとされるので、無惨が生まれたとされる平安時代の日本にも当然ありました。

 この植物の名前は「食べたら彼岸(死の世界)に行く」が由来だという説もあります。実際に彼岸花の球根にはリコリンやガランタミン(アルカロイドの一種)などの毒があって、人が食べると下痢や吐き気を起こして、重症の場合は死に至る場合もあります。毒があることを利用して、土を掘り起こすネズミやモグラの対策として球根を畑や墓地の近くに植えたのが、彼岸花の栽培の起源だと考えられています。サンスクリット語に由来を持つ「曼珠沙華(マンジュシャゲ)」や、墓地から連想した「死人花(しびとばな)」の異名も持ち、『鬼滅の刃』の世界観にはぴったりの花と言えるでしょう。