外観こそキャデラックCTS風だが、骨組みはGMのピックアップ・トラックのものを流用しており、同じく流用した8.1リッターのエンジンを積んでいる。それもそのはず、車重は7トンから9トンと推計され、ファミリーカー5、6台分の重さである。

 機密キャビンに12センチ厚の防弾ガラスを装備し、車内には酸素マスクから自動小銃、暗視カメラ、大統領の血液型に合った輸血装置まで備わり、当然タイヤはパンク知らずのラン・フラット・タイヤである。

 2018年に新車に代替わりし、トランプ大統領が愛用した後バイデン大統領に引き継がれ、2023年広島サミットにも持ち込まれている。キャデラック・ワンは、自動車の輸出促進のようなトップセールス云々よりも、国防を最優先したお国柄がにじみ出ている。

 なお、2023年2月、戦時下のウクライナ・キーウで、同国のゼレンスキー大統領の下に米バイデン大統領を運んだのは、キャデラック・ワンではなくトヨタ・ランドクルーザーだった。

フォード傘下でもタタ傘下でも
英国首相はジャガーに乗る

 イギリスは大日本帝国に軍艦を売り、建艦技術を伝授した国である。同時にイギリスはアメリカと同じくらい、日本の自動車産業を導いた恩師でもある。

 そんなイギリスの首相公用車は、予想に反して地味であり、最高級車ロールス・ロイスやベントレーは採用されない。これらはイギリス王室が使う車である。

 とはいえ、政府内で最高位の人物が乗る車ゆえ、質実剛健に作られ、威厳のある車が歴代選ばれてきた。

 第2次大戦を戦い抜いたチャーチル首相は、戦時内閣が調達したオースチン20(20馬力)を「馬力不足」と酷評し、戦中に防弾仕様のハンバー・プルマンに乗り換えた。以降、歴代首相はローバーP5を代々乗り継いだ。

 この伝統を壊したのが、マーガレット・サッチャーだった。79年にイギリス初の女性首相に就任すると、彼女はジャガーXJを指名し、以降、ジャガーが(後に買収されフォード傘下に入ろうと、さらにインドのタタに売却されようと)歴代公用車となった。

 なお、デビッド・キャメロンに同行していた広報責任者オリバー・クレイグは、XJの車内後席が窮屈だった、と回顧している。

 アメリカ同様、気密キャビン、分厚い防弾ガラスにランフラットタイヤを装備し、床下には13ミリの防弾板、さらに室内からSPが小火器を車外へ発砲できるポッドまで備わっている。