10億を優に超える国民やカトリック信徒の頂点に立つ中国の国家主席とローマ教皇。プライベートを重視し個性豊かな国民が多い仏と伊。それぞれの公用車には使用する首脳たちの思いや国民性が如実に反映されていた。※本稿は、鈴木均『自動車の世界史』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです。
毛沢東も乗った「紅旗」が日本進出
赤い皇帝のクルマの乗り味は?
中国の最高級車は紅旗H9であり、紅旗といえば毛沢東が乗った公用車のリムジンCA72である。
CA72は1972年に米ニクソン大統領の訪中でも活躍し、21世紀の初頭まで龍のような特徴的な顔を変えることなく世代交代を重ねた。2015年には戦勝70周年、9・3大閲兵の際、L9が習近平氏の三軍への閲兵専属車両として登場した。
そして2021年12月、紅旗は大阪なんばに日本初となるショールームを開設した。目玉は、20年8月に披露されたばかりの、日本のナンバープレートを取得した最高級車H9である。
デザインは全く新しく現代的になり、良くも悪くも先進国の「普通の」最高級車の出で立ちである。
中国は米欧諸国や韓国と異なり、1958年に多国間で締結された「車両等の型式認定相互承認協定(58協定)」を締結しておらず、日本輸入時の排ガス検査や衝突安全試験などが免除されないため、ナンバー取得が難しかったのである。
中国はEUの排ガス規制EURO6よりも厳しい国内基準を課しており、H9は問題なく国交省の検査に合格した。
H9の車体はレクサスLSやBMW7シリーズ並みだが、価格はこれらの半額であり、驚異である。筆者などは、なぜEV版を日本に投入せずにガソリン・エンジン車を投入したのか、疑問である。ガソリン車でも勝負できることを証明したかったのだろうか。
中国が格安なガソリン・エンジンの高級車を作って売れるならば、格安な大衆向けのガソリン車を作って途上国市場を席巻するシナリオも見え隠れする。インドのタタ・ナノが試みて失敗した道だが、勝算はあるのか。
IT大手のファーウェイはアメリカ流の経営手法を社内で徹底するため、社員に対し、アメリカの靴を履き、自分の足を削ってでも靴に合わせろ、と檄を飛ばしたと言われている。
このノリで途上国市場のエンジン車への需要を満たされると、品質と安全を軽視できない日米欧メーカーは、ついていけない可能性がある。
中国が途上国向けのガソリン車の開発と輸出に大成功すれば、世界の自動車生産国間の競争に新たな変動をもたらすだろう。もっとも、その頃にはたとえば中国は自動車生産国のトップクラス入りを果たしている可能性もある。
多様性のお国柄を反映か
大統領ごとに公用車が変遷
フランスは仕事よりもプライベートを重視する大人が多く、平日の昼休みも食事と共にワインをたしなみ、「嫌なものは嫌」とはっきり言う。