経営者やリーダーというと、クレバーで決断力があり、知識も豊富で、求心力がある人……というイメージがないだろうか。しかし、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成し、現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三氏は、初著書である『リーダーは偉くない。』の中で「リーダーのあり方は『百人百様』。誰かの真似をして『リーダー像』を演じて見せてもうまくいかない」と語る。本記事では、本書の内容をもとに「リーダーのあるべき姿」について紹介する。 (構成:神代裕子)

リーダーは偉くない。Photo: Adobe Stock

「リーダーだから」と気負う必要はない

 リーダーを任じられた場合、喜ぶ人もいるだろうが、「自分なんかがリーダーになっていいのだろうか」と悩む人も少なくないのではないだろうか。

 特に、近年の若者は出世したがらない人も多いと聞く。

 筆者もその一人で、会社員時代、リーダーに抜擢されたときは不安の方が大きかった。

 リーダーたるもの、自部署に任されている仕事は全て理解できていないといけないのではないかと気を張っていたのを覚えている。

 リーダーとは、部署の仕事を滞りなく進められるように指示を出し、部下の相談に答え、悩みを解決できなければならないのではないか、と考えていたのだ。

 だから、当時を振り返ると、非常にリーダー職を重荷に感じていたし、ピリピリしていたように思う。

 しかし、立花氏は「リーダーだからと言って、あまり気負いすぎない方がいいと思う」とアドバイスをくれる。

それよりも、自分の「欠点」や「弱点」を認めて、どんどんメンバーに「助けて」もらったほうがいいのではないでしょうか。そうすることで、メンバー一人ひとりの力を思う存分に発揮してもらうことができれば、リーダーが偉そうにしているよりも、よほど強いチームが生まれると思うのです。(P.315)

 なんとも優しい言葉である。当時の筆者に聞かせてやりたいと思うアドバイスだ。

助けてもらうことで人間関係を確立

 とはいえ、立花氏も東北楽天ゴールデンイーグルスの社長に就任する前、メリルリンチで働いていた頃は、このようなことは一切考えていなかった。その前に働いていたゴールドマン・サックスで結果を出してきた経験から、あたかも自分が「絶対的な答え」を知っているような振る舞いをしていたのだという。

 しかし、その結果、人がついてこないという失敗を経験した。

 そして、立花氏は思い出す。「若い頃の僕はむしろ、自分のことを『バカだな!』くらいに思っていて、誰かに『助け』を求めることで窮地を脱したり、成果を上げることばかり考えていた」と。

 例えば、営業でお客様に市場の状況を正確に伝えるために、先輩は社内アナリストが書いた分厚いレポートを読んで勉強していた。

 しかし、自分はそういったことが得意ではなかったので、社内のアナリストと仲良くなって、「お客様のところに一緒に行って、市場動向についてレクチャーしていただけませんか?」と頭を下げ、同行してもらっていたそうだ。

 すると、頼まれた方も「お前は人使いが荒いな」と笑いながら、可愛がってくれたという。

 自分の「欠点」や「弱点」を補ってもらうために、周りの人を巻き込んでいった思い出がたくさんあることに気づいた立花氏は「それは大抵いい思い出であり、楽しい思い出なんです」と振り返る。

周りの人に助けてもらって「よい結果」が出たからというだけではなく、そのときに力を貸してくれた人たちと仲良くなって、みんなで楽しい時間を過ごすことができたからです。本当に感謝しかありません。(P.319)

助けてくれる人に「敬意」と「感謝」を忘れない

 立花氏は、「周りの人の協力を仰ぐ際に忘れてはいけないことがある」と指摘する。

 それは、自分には「弱点」があることを認めた上で、周りの人にその「弱点」を補ってもらったり、助けてもらったりすることだ。

 そして、彼らに対する「敬意」と「感謝」を忘れないこと。そうすれば、自然と「信頼関係」も生まれるはず、と提言する。

 さらに、「『弱点』を補ってもらうということは部下と張り合うのをやめることでもある」と語る。

むしろ、自分の「弱点」を補ってもらうためには、メンバーのもつ「能力」を思う存分発揮してもらえるようにサポートしたほうが得策。その結果、みんなも伸び伸びと気持ちよく仕事に取り組んでくれるようになったと思います。(P.324-325)

 これは、リーダー職に対して尻込みしてしまう人にとっては、金言ではないだろうか。

 みんなを引っ張っていくことがリーダーではない。そう思えば、リーダーという立場も怖くない気がしてくる。

「弱点」をさらけ出せば、周りは助けてくれる

 立花氏は、「弱点」があるからこそ、リーダーは「強く」なれるのだと考えている。

リーダーとしての「優位性」を誇示するために、メンバーと競い合ったりしても、チームはバラバラになって弱体化するだけだと思います。
そんなことをするよりも、自分の「弱点」を「武器」にすることを考える方が、自分なりのリーダーシップを確立する近道だと思います。だからこそ、「リーダーは偉くない」と肝に銘じることが大切だと思うのです。(P.325)

 人によって、抱える弱点は「百人百様」。だから、立花氏が言うように、弱点を見せつつ、仲間にフォローをしてもらっても良いのであれば、リーダーのあり方も「百人百様」であって当然。そこに、自分ならではのリーダーシップが生まれるというわけだ。
 
 周りの力を借りながら、自分らしいリーダー像に行けば良い。

 当時の筆者にこの言葉を聞かせてくれる人がいればどんなに気が楽だっただろうかと思う。

 なぜなら、本書を読んだことで、「もっとみんなに相談をしたら、きっと助けてくれたんだろうな」と心から感じたからだ。

 だからこそ、今、リーダーとして一人で頑張っている人や、リーダーとしてのあり方に悩んでいる人に、ぜひこの本を手に取ってほしい。

 リーダーとして知っておきたい、大事なことがたくさん詰まっているから。