ひとくちにリーダーといっても、社長から現場の管理職まで様々な階層がある。抱えている部下の数や事業の規模もまちまちだ。自分の悩みが周りと同じとは限らず、相談する相手がいなくて困っている人も少なくないだろう。
そんなときに参考になるのが、ゴールドマン・サックスなどの外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「優勝」と「収益拡大」をW達成した立花陽三さんの著書『リーダーは偉くない。』だ。本書は、立花さんが自身の成功と失敗を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いた1冊で、「面白くて一気読みしてしまった」「こんなリーダーと仕事がしたい」と大きな反響を呼んでいる。今回は立花さんに、組織・チームの目標の立て方などについて伺った。(聞き手は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏)

結果を出せないリーダーがよく使う「部下に響かないセリフ」ワースト3Photo:Adobe Stock

「カッコつけた横文字・流行語・抽象的な言葉」の3つは部下に響かない

――立花さんは、もともとは金融畑の方なんですよね。

立花陽三(以下、立花) そうですね。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入って、1999年にゴールドマン・サックス証券に転職しました。

 その後、ヘッドハンティングされたメリルリンチ日本証券(現BofA証券)でリーダー経験を積んでから、2012年に東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、楽天野球団)の社長に就任しました。 

――リーダーとしての経験が豊富な立花さんにお伺いしたいのが、「目標の立て方」です。

 メンバー全員がやる気になるような「いい目標」をどうやって作ればいいのか、社長のような組織のトップだけでなく、現場の管理職も含めて、悩んでいる人は多いと思います。そういった方々のために、アドバイスをお願いします。

立花 私の場合は、とにかくシンプルに「メンバー全員がわかる言葉」を使うことが、非常に重要だと考えています。つまり、100人中100人が確実に理解できる言葉で、目標を立てるんです。

 カッコつけて横文字を使ったり、今風な流行りワードを入れたりする人もいますが、一番大事なのは「やりたいことがストレートに伝わるかどうか」です。ここがブレているようでは、目標が理解されないですし、当然結果も出ない

 また、経常利益総売上といった言葉も、社員一人ひとりにとっては非常に抽象的で実感がわかず、心に響きません。

 リーダーの座に就いた直後は、周りは「この人は何をやりたいんだろう」と気になっています。なので、その関心に応えるために、何よりもまず「伝わる言葉」で目標を表現すべきだと思いますね。

――なるほど、わかりやすさが大事だということですね。確かに、立花さんが楽天野球団の社長になったときに、球団オーナーである三木谷浩史さんから指示のあった「優勝と黒字化」という目標も極めてシンプルだし、それを受けて立花さんが掲げた「観客動員数を増やす」という目標も非常にシンプルですね。

立花 そうですね。最初に打ち出すときはそれくらいシンプルな言葉にしておいて、その後に具体的な数字へと落とし込んでいけばいいと思います。

 楽天野球団では、黒字化という究極のゴールを達成するために、観客動員数の目標を定めました。そのうえで、試合ごとに「今日は目標を超えた/下回った」という結果を発表して、目標を日々意識しながら仕事に臨める環境を整えました。

 なるべくわかりやすく「この数字を達成すると黒字化につながりますよ」という“マジックナンバー”のようなものを示すことが重要だと考えています。

部下のやる気を引き出す「仕掛け」も大切

――本書にもありましたが、観客動員数が目標を達成したら、社員食堂の利用がタダになる仕組みも作ったんですよね。とても斬新な発想だと思いました。

立花 観客動員の目標値は結構思い切った数字だったので、当初は「どうせ無理だろう」とみんなが思っている節がありました。そこで、僕は何とかしてチャレンジする機運を高めようと、累計の観客動員が目標を超えていれば社員食堂がタダ、下回っている間は300円にしたんです。

 こういう「ゲーム的な仕掛け」があった方が目標に対して興味を持ちやすいし、モチベーションも上がります。

 まとめると、わかりやすい言葉を使った目標設定と具体的な数値化、そしてそれらに興味を持たせて、楽しみながら達成に向けて頑張れるような仕掛け作り。これらをセットでやれば、うまくいく可能性が高まるのかなと思います。

(本稿は、『リーダーは偉くない。』の著者・立花陽三さんへのインタビューをもとに構成しました)

立花陽三(たちばな・ようぞう)
1971年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)を経て、2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。