YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」で、メンタルの病気について発信し続けている、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介氏。インタビュー第3回では、「何のために生きるのか」という問いを持たざるを得ない現代について聞いた。本記事では、『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(キム・ダスル著、岡崎暢子訳)の発売を記念して、精神科における「気分」と、自己肯定感の関わりについて聞いていく。【第1回、第2回、第3回の記事はコチラ】
「気分」はメンタル不調のサインである
――精神科における「気分」とはどんなものなのでしょうか。
益田裕介(以下、益田) 「気分」とは、基本的に不調のサインと考えられています。「うつ病」なんかは気分障害の一種ですね。心身の疲弊が起きると、やっぱり落ち込むんです。でも、人は落ち込むことで活動を制限して、心身を回復してまた動けるようになる。だから、調子が悪いときは気分が落ち込むようにできてるんです。なので、疲れてるときのサインといったイメージでしょうか。
――人はどんな時に不調が現れるのでしょうか
益田 やっぱり疲労がたまってるときです。「働き方改革」以前は、単純に過労の時代でした。みんな長時間残業をして、それで疲れてうつ病になっていました。でも今は、短時間で仕事をしなければいけない。それができないと発達障害だという話になったり、コミュニケーションがうまく取れない、短時間で仕事終わらせられない、ということで落ち込んでしまう人が多いです。
他者への「妬み」が「劣等感」に加工されている
――確かに、他人との比較で落ち込む人が多いように感じます
益田 もう1つ多いのが「妬み」なんです。「劣等感」とよく言われますが、実は妬みなんじゃないかなって最近思っています。本当は、相手をうらやましいと思って妬んでいるんだけど、うらやましいと言うと角が立つし、自分も相手も嫌な気持ちになる。だから、その気持ちが「自分はダメなんだ」という劣等感に加工されているのではないかと考えています。
――「劣等感」の正体が「妬み」というのは意外です
益田 「私はダメなやつなんです」と言って攻撃性を自分に向けている。「妬んでる」というとよくないから、劣等感という言葉に変換されて。その結果、自分を攻撃して病んじゃうというか。
――でも、自分ではどうにもならないことで妬んでしまうと苦しいのかもしれません
益田 例えば家庭環境について、「親ガチャ」という言葉が隠しているけど、やっぱり、妬みがストレートに扱われてないだけなのではないかと思うんです。妬んでるし、受け身なんだよね。みんな、誰かが何かしてくれると思っているのではないでしょうか。
自分で「これがいい」と思えたらいい
――まずは自分の感情に気付いて、対処していくのでしょうか?
益田 そうです。まずは自分の状態に気付いて、妬みをどうやって受け入れるかという話になってくる。昔はできないことを修正していくのが治療だったのですが、最近は「そんなのキリがないよね」という感じです。自分のゴールとか、これがいいんだという美徳が見つかって、自分の中で納得しないと治療が進まない。
――とはいえ、周りにすごく成功している人がいると焦ってしまうのではないでしょうか
益田 そこそこ働いて、友達がいて、自分で料理を作ったり、ぜいたくはしないけど、自分で「これがいい」と思えたらいいんです。でも、なかなか「これがいい」が見つからない人が多い。「友達はタワマン買ったけど大丈夫かな」、「同級生は子供を産んだけど、私は大丈夫かな」と不安に思っています。でも、「しかたない」と思えると、良くなるのではないでしょうか。
――周りと比べて焦ってしまうとき、自分に言い聞かせると良い言葉はありますか
益田 「まあ、しかたない」、「運が悪かった」とかでしょうか。患者さんとお話しするときも、「しかたない」とか「そうだよね」とか、「よくわかるよ」とかは言いますね。「しかたない」と言って妬みを手放してしまうのが現代には必要なんだと思います。
(取材・構成 書籍編集局 工藤佳子)