YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」で、メンタルの病気について発信し続けている、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介氏。インタビュー第2回では、最近増えているメンタル不調の相談と、その意外な理由を聞いた。本記事では、『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(キム・ダスル著、岡崎暢子訳)の発売を記念して、最近増えているこころの悩みについて話を聞いていく。【第1回、第2回の記事はコチラ】
お金もブランド物も要らない。では何のために働くのか?
――YouTubeの視聴者の方から寄せられるコメントなどで増えている話題はありますか?
益田裕介(以下、益田) 最近増えてるのは、「何のために生きるか」という話です。宮崎駿監督の、『君たちはどう生きるか』(2023年公開)じゃないですが、最近これが多いんです。
――なぜそのようなコメントが増えているのでしょうか?
益田 というのも、昔は年収1000万円を超えるんだったら残業が100時間を超えてもみんな平気だった。でも今、それがいいという若者は1人もいない。休職するときや復職するとき、そもそも何のために働くんだろうという相談が本当に増えました。
――昔と今ではどのような点で価値観が変わったのでしょうか?
益田 そんなの、昭和の人たちは考えたことなかったわけです。だけど今、めちゃくちゃ考えられています。50、60代の人でも、会社とかで嫌なことがあった後に何のために働くのかなみたいなことを考えているようです。みんなお金のために働けないことに気付きつつあります。おいしいもの食べたくないし、旅行もそんなに行きたくないし、「別に要らんくない」という。だからやる気が出ない。
――「別に要らんくない」という感覚は、確かにある気がします
益田 そうなんです。ブランド品も買わないし、苦しい思いをして働いてまで欲しくないから、何のためという感じで。だから、それを一人ひとりが探すということが増えています。
――子どもがいる人とかだったら、子どものためにとか思えるのでしょうか
益田 それももう、終わりだと思います。だってもう、受験勉強にお金かけても意味ないってみんな思ってるじゃないですか。だから、子どものためには頑張るけど、頑張りすぎてもしかたないということがみんな分かってしまって。だから何のために生きるのか、悩んでるんだと思う。
何のために回復すべきなのかも分からなくなる
――患者さんでも「何のために生きるのか」分からなくなる方が多いのでしょうか?
益田 分かんなくなっちゃうというか、踏ん張れないのが問題なんだと思います。つらい仕事も、「とりあえずやってるけどつまんないし、なんで頑張んなきゃいけないんだろう」と。「じゃあ、休んだら」って伝えても、なんで休んで治療しなきゃいけないのかが分からなくなっている。
――回復へのモチベーションにも影響しそうです
益田 そうそう。何のためにそんなトラウマ解決しなきゃいけないのとか、もっと言うと何のために生きるのとか。安楽死とかもまさにそうだと思うんです。つらい思いをしてまで何のために生きなきゃいけないの、みたいな。そんな感じですね。
――この問いは、誰も答えを持っていないのではないかと思います
益田 そうだと思います。でも結論は結構単純で、家族の時間を増やしたりとかそういうあたりまえのことになってくるのかなと。高級なもの食べなくても、自分で料理を作って食べたいとか。それだけっちゃそれだけなんだけど。人によっては、興味のある分野を学びたいとか、山登りをもっとしたいとか、いろいろあるんだと思います。
――目的がないとつらくなるのはどうしてなのでしょうか?
益田 現状をちょっと直していく、現状をちょっと変えていくだけだと、なぜかよくないと思ってしまうのではないでしょうか。例えば、たくさん稼いでいるIT企業の社長などもいますが、これ以上稼がなくていいし、「何のためにやるんだ」ということはみなさん仰っています。だって、喧嘩したりとか苦手な人をチームに入れてまで会社を大きくして、家族の時間も奪われて、何のためにやるのかという疑問を抱いてしまうのではないでしょうか。
――確かに、つらい思いをしてまで得たいものってないのかもしれません
益田 別にタワマン住まなくてもいいし、六本木で飲み会したいわけでもないし、何のために無理して頑張るのかという。やっぱり、お金はほどほどでやりがいがそこそこあって、家族の時間もとれて、友達と遊ぶ時間があってというのがいいんじゃないでしょうか。何がなんでもお金を稼ぐという人はいなくなったということだと思います。
――ちなみに先生は、何のために生きていますか?
益田 僕自身に関して言えば、あんまり理由がなくてもいいと思っているんです。だけど、そういう考え方はもう古いんだと思う。医者の世界って10年、20年、遅れてるから。別に僕、はっきり言ってどうでもいいんです。普通に活躍してたらいいよみたいな。だけど、医者の世界もこれから「働き方改革」が起きたりすると変わってくるんだろうなと思います。
(取材・構成 書籍編集局 工藤佳子)