最も重要なことは、イスラエルとイランは、事実上、相手を滅ぼすことを国家としての基本方針としている、ということだ。

 シーア派によるイスラム原理主義的国家であるイランは、かの地にユダヤ人国家が存在していることを認めていない。イスラム革命以来40年以上、イスラエルを滅ぼすことはイランの宿願である。

 一方、ホローストを経験した民族国家として、自らを「滅ぼす」と明言する者に対する、イスラエルという国の敵意や恐怖心は、私たちの想像できる範囲を超えている。ユダヤの歴史の中では、虐殺はすぐ隣にある事象だ。中東の強国であるイランは、イスラエルにとって最大の脅威なのである。

 そんな2国は、パレスチナの「ハマス」、レバノンの「ヒズボラ」という武装勢力を介して代理戦争を既に開始している。イスラエルがハマス・ヒズボラと戦争をしていることは日本でもよく知られているが、そのハマスもヒズボラもイランが裏で支援をしている。イランはこの2勢力を通じて、イスラエルの国力減退を図っているのである。

 そしてついにこの4月、直接戦争の危機が訪れた。シリアにあるイラン大使館が、イスラエルによって爆撃を受けたのである。そこに武装勢力の幹部が滞在しているとの情報が入ったためだが、国際法上、大使館への攻撃は領土攻撃に等しい。

 イランは報復を宣言し、史上初のイスラエル本土への攻撃を実行する。それに対してイスラエルもまた、イランへの攻撃を行った。

 だが、戦闘行為はエスカレートしなかった。双方の攻撃は、相手に対して「被害が最小限となるように配慮した抑制的なもの」だった。

 イスラエルの軍事力からすれば上空で全て撃墜できるとの目算のもとで、イランはミサイル・ドローン攻撃を行い、またイスラエルも極めて抑制的な物量での反撃を行った。

 双方、ミサイルを相手領内に打ち込むという最悪の手段を用いて、戦争する気はないということを相手に伝えたのである。なんという非効率で、絶望的なコミュニケーション方法だろうか。