大槻 孫社長が、日本国籍を取得した時ですね。「ただいま!」と社長室に戻ってきたときの晴れやかな笑顔は、今でも忘れることはできません。

「孫正義」という物語に
一切の汚点なし

井上 孫社長は、95年に世界最大のコンピューター見本市「コムデックス」を、続いて、世界一のコンピューター関連出版社である「ジフ・デービス」を買収します。この2つの出来事は、その後の孫さんとソフトバンクに何をもたらしたのでしょうか?

大槻 僕は、2つの点で重要な意味があったと考えています。1つは、95年の「コムデックス」前夜祭の基調講演のステージで、孫社長が「主催者」としてIBM会長のルー・ガースナーやマイクロソフトのビル・ゲイツ会長を紹介したこと。まさに、孫正義とソフトバンクが、世界のコンピュータービジネスの最前線に名乗りを上げた象徴的なシーンでした。孫社長はコムデックスのブランド力を手に入れることによって、世界のIT業界トップと対等な地位を得たのです。

 もう1つは、その後、ジフ・デービス社長のエリック・ヒッポーから「孫さん、Yahoo!って知ってる?」と聞かれた孫社長が、その可能性をひと目で見抜いたこと。このことが、ソフトバンクをインターネットカンパニーへと導いていくのです。

井上 コムデックスでの孫さんの満面の笑みは、私も鮮烈に覚えています。孫さんのキャリアを振り返り、今後の孫さん、ソフトバンクに期待することはどんなことですか?

大槻利樹氏大槻利樹氏 Photo by Motoyuki Ishibashi

大槻 1つだけ言いたいのは、WeWorkの経営状況悪化に対して意見を求められたときに、孫社長が「私の人生の汚点だ」っていう言い方をしましたけど、あれは良くなかったと思います。孫社長の人生に汚点なんてないですよ! だって純粋にやってるんだから。孫社長にだって間違いや失敗はあるでしょう。でも、断じて汚点ではないと思います。

 孫社長は50年ビジョンで「60代で継承する」と宣言し、そのステージに入っていますが、 僕が秘書だったときから100年、200年と続く会社を目指していました。

 現在のソフトバンクほど規模が大きくなれば、創業時のベンチャースピリットが消えて「普通の大企業」になってしまうのは仕方のないことかもしれません。たとえ「これまでのソフトバンク」がなくなったとしても、ファンの僕からすれば「孫正義物語」の価値を何ら棄損するものではないと思っています。

「Tシャツ姿の青年」
孫正義との出会い

井上 ところで、大槻さんが孫さんと初めて出会ったのはいつですか?