日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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忖度文化の強い会社では、関心が社内にしか向かない

 忖度文化や保守的な組織を変えるためには、実践しなければいけないことがあります。

 それは、「異質」の人財を配置することです。すでに語られた議論かもしれませんが、それでもまだ実践できている組織はそう多くないように感じます。

 その理由として、日本企業は、同質の考えと価値を有する人間のみで構成されている組織がいまだに多く、加えて忖度文化が浸透しているため、違う考え方や、その組織の文化に合わない発言や意見を、「異質」のものであるとして、排除する傾向が強いからです。このような組織は、「内向きの組織」と言えます。

 これだけ「異質な人財」やダイバーシティの重要性が語られているのに、いまだにうまくいかない原因は、同質の考えを持って暗黙の了解で動く「内向き組織」のマインドセットにあります。

 どういうことかと言うと、誰もが異質な人財の重要性や効果を頭では理解しているものの、心では自分たちと同質でない人財に拒否感を示してしまうのです。ですから、自分とは違う人・ノーを言ってくる人たちは自分と敵対する存在ではなく、アドバイスをくれる人だと理解することがまずは重要です。「自分たちとは違う!」と考え、相手と敵対してしまうと争いの火種をつくってしまいます。

 ですが、自分たちと同質でない相手の意見も、考え方やものの見方が違うだけで、目指すゴールは同じだということに気がつけば、議論はむしろ深まります。こうして議論し、合意した事項は、実行時のエネルギーレベルもそれまでとは比較にならないほどに強まっていくのです。

内向き組織と前向き組織

 主流組だけが経営をリードしていた当時の味の素では、経営環境の変化に対する認識やそれに対応するための新たな視点を踏まえた議論が不十分なままに、規定路線の戦略が実行されていきました。

 結果としては、残念ながら企業のパフォーマンスは低下していきました。